妄想別館 弐号棟


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デパートの怪異

果奈はこの春、某デパートに就職した。
新人研修も終わり、配属部署は8階の婦人服売り場であった。
この階は・・・奇妙な噂の有る場所だ。
夜遅く売り場裏の執務室に残っていると、誰かが歩いている音がするとか。
もちろん泥棒のたぐいではない。
先輩は恐ろしそうな顔で「出るんだそうよ」と、言っている。
目撃した人の話では「マネキンが歩いていた」そうだ。
果奈は「信じられない。そんなバカなこと」と、思っていたのだが・・・
ある日、果奈は1人で遅くまで居残ることになってしまった。
「やっと終わった。さっさと帰ろう」
大急ぎで帰り支度をして、小走りでエレベーターの所まで来る。
職員用のエレベータ待合場所は、店内照明を消したので非常灯のみが灯っている。
『ほとんど』と、まではいかないが真っ暗だ。
なにげなく振り返ると「ギョッ!」心臓が飛び出すかと思った。
マネキンが立っていて、こちらを見ているではないか。
あきらかに人間ではない。テカテカと光沢のある顔をしたマネキン人形だ。
そして動いている!まちがいなくマネキンが動いている!
「キャァァ!」と、彼女は悲鳴を上げた。
逃げようとしたが、運悪く机が置いてあって後ろに下がれない。
体もガチガチとこわばリだした。足もすくんで動けない。
震えながら、後ろ手を机につくようにして叫んだ。
「来るなぁ!こっちに来ないでよぉ!」
近づいてこようとはしないが、何かぎこちない動きをしている。
そして恐ろしい顔をしてこちらを睨んでいる。声は出ないが何か叫んでいる。
後ろ手に何かが触れた!たまたま机に置いてあった金属製の重たい文鎮だった。
彼女は反射的に、思い切りマネキンに向かって投げつけた。
「あ、当たった!」
それは運よく、そしてみごとにマネキンの顔に命中した。
必死になるとおもわぬ力が出るものだ。
文鎮をまともに顔面に受ければ、マネキンといえどもひるむだろう。
その隙に逃げれば・・・
しかし、それは果奈の予想と大きく違っていた。
マネキンは『ガシャーン』と、すごい音をして砕けた。
いや違う。砕けたのは、誰かが片付けないで置いてあった鏡であった。
「え、マネキンじゃなかったの?」
鏡は粉々になって砕けている。
「なんだぁマネキンなンて、いなかったのか。あれはただ鏡に・・・」
果奈はゾッとした。
「そ、それじゃ映っていたマネキンというのは・・・」
彼女の意識はそこまでであった・・・

                           デパートの怪異 完

2025 03 23
Written by GreenIce