物語の部屋 その4
ああ青春
中年男が、ショーウインドのマネキンを見ながら感慨にふけっている。
「マネキンを見ていると・・・俺もあの時は若かったんだなぁ・・・」
音屋時次郎。あと数えるほどの日数で高校を卒業する時・・・の青春懐古談である。
椎名久美。学年、いや学校中のマドンナ。
美人で性格も素直。長身でメリハリのあるモデルの並のボディ。
頭もよく、全校生徒のあこがれの的だ。
時次郎が卒業間近になった頃、ずっとアこがれだった同級生の彼女に、
「どうしても告白して、願いをかなえてみたい」
抱いていた欲望が抑えきれなくなった。
『ああなんだ。よくある青春の一コマじゃないか。何を悩むことがある!ダメで元々。
男なら堂々と彼女に愛の告白をするべきだろう』って?
いや違う。全然違う。ストレートに書くと『アソコを見せてください』。
『やらせて下さい』とまでは言わないが、この一言を言えば、
彼の楽しかった学生生活は一瞬で崩壊するであろう。
温和な彼女に蹴っ飛ばされるかもしれない。
変態のレッテルを貼られたまま卒業せねばならない。
いやもしかしたら卒業できず、大学進学が刑務所行きに変わるかもしれない。
しかしだ、彼はどうしても見たかったのである。
何か手はないか。必死で知恵を絞った。彼女の情報を集めてみた。
そして、彼女は変な癖があることがわかった。
休み時間など、屋上の踊り場、校舎の裏、体育館の倉庫など、人のイない所に行って、
1分間だけじっと『ポーズ』をとって動かない。
彼もそれに気がついた時「なんだあれは?」と思った。
彼女の友達に聞いてみると、マネキンのまねをしているのだという。
年を取らないマネキンにあこがれて、1分間だけ絶対に動かないのだそうだ。
たしかに奇妙な癖だ。でも利用しない手はない。
絶対動かないというのがミソだ。そこに勝機はあるかもしれない。
そして・・・都合のいいことに、今日の彼女は屋上に上がっていった。
誰もいないことを確認して、髪の毛に手を当てて横を向いて、ポーズをとった。
時次郎『チャンスだ』と、柱の陰から飛び出していった。
久美は「あっ」と、叫ぼうとしたが思いとどまった。
驚き怒った顔で時次郎を睨みつけるが、やっぱり動かないし声も上げない。
彼は、驚くべき手つき速さで、彼女を押し倒し、服を脱がせてしまった。
それでも彼女は動かない。でも怒りでスさまじい顔に変わりつつある。
彼が、アソコとアソコとアソコを揉んでつまんで開いた頃に、1分が経った。
彼女は全裸のまま飛び下がってしゃがみこみ、体を必死に隠しながら時次郎にがなり立てる。
「ひどいわ!何すんのよ!」と、彼女の怒りはすさまじい。
この有様では・・・あと数日で卒業のところ、本当に退学になるかもしれない。
でもいいのだ。『わが青春に悔いなし』とはよく言ったものだ。
このいかにも潔くて情けない行為に、天の神様も何か思うところがあったのだろう。
平凡な時次郎の頭脳にすばらしい言い訳を与えてくれた。
「何とか言いなさいよ!」と、噛みつかんばかりの久美に対して、
「いや、椎名さんそっくりのマネキンが立っていたので、ビックリしたんだよ。
それで、それで、思わず・・・」
「え!マネキンって・・・」
久美は
般若のようになっていた顔をほころばせて、
「本当?本当にマネキンそっくりだと思ったの?」
「ああ、絶対に本物のマネキンだと思ったんだけどなぁ。人間だった」
久美は頬を赤らませて「やったぁ!」と言っている。
『いや、そんなバカな事ないだろう』って?いやいや、そこが青春なのだ!
しばらくして、店から美しい女が出てきた。なんとマネキンを抱えている。
「時次郎さんお待たせ」
「それじゃ久美、食事でもして帰ろうか」
「そうしようよ。でもこのマネキンはあなたが持ってね。重たいから」
2人はマネキンが縁で大学卒業後、夫婦になったのだ。
最近では一緒になってマネキンごっこをやっているそうである。
趣味も達人の域に達し、2人とも1時間ぐらいなら、じっと動かないでいられるそうだ。
ああ青春 完
2025 03 29
Written by GreenIce