妄想別館 弐号棟


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ラップを使って

山野中伝三郎。若きサラリーマンである。
これは酔っぱらっていた時の不思議体験である、と彼は言っている。

(めぐみ)「あれ、ラップがない。あなた、悪いけどラップを買ってきてくれない」
(伝三郎)「えーぇ、今から!」
風呂から上がり、缶ビールで一杯やっているところなのに・・・
しかしめぐみには逆らえず、いやいやながら買いに出かける。
伝三郎とめぐみは新婚の夫婦である。でも彼はまったく彼女に頭が上がらない。

伝三郎は「コンビニで調達すればいいか」と、思っていたが、ナント売切れ!
いや1個だけあった。普段使っているのと違う物が。しかも値段もかなり高い。
売り文句がデカデカと書いてある。
『これは調教するのがうまくなる優れもの』だそうだ。
「調教ではなくて調理の間違いだろう。誤植だな」
それはどうでもよい。それよりも別の店まで買いに行くのが面倒くさい。
「これでいいや」
帰ってきて、めぐみに渡そうとすると、
「なによ!手伝ってよ」
何で俺が、と思うが、逆らうと後が怖い。
手を洗って、しぶしぶと台所に行く。
(伝三郎)「何をやってんの?」
(めぐみ)「おにぎりを作ってんの」
「ハァ、おにぎり?なんだってそんなものを?」
「ハァじゃないわよ。あんたがご飯を炊きすぎたんでしょ!」
今日は伝三郎の食事当番でご飯を炊いたのだが、量を間違えた。
彼女が「毎日食べてるのに、炊く量を間違えるなんて!」と、ブツブツ言っている。
「あまった分は、明日食べればいいじゃないかよ」
「夏のこの暑い時期よ!明日の朝までに全部食べ切るっていうの!」
文句を言ったら、すかさず反撃され、完璧に言い負かされてしまった。
「冷凍庫で保存しておかなければ、傷んで食べられなくなってしまうでしょ。常識よ!」
トドメをさされた。容赦のない『お言葉』に彼は何も言えない。
仕方なく、伝三郎はおにぎりを握り始める。
「もっと固く握る」「塩のつけすぎ」「形をそろえてよ」と、さんざんに注文をつけられて、
「それじゃラップに包んで冷凍庫に入れておいてね。あたしお風呂に入ってるから」
「チェッ!」と、彼は舌打ちした。ビールが飲みかけだったのを思い出し、飲み終えてからにしようと思った。

彼はおにぎりをラップで包みはじめた。
しかしこのラップ、勝手に伝三郎の手を操って、おにぎりを包んでいくような感じ。
「あれ、俺酔っているのかな?」
「なんか変だな?」と思うが、でも早いし勝手にやってくれる方がありがたい。
一個、二個、三個、とおにぎりを包んでいるうちに、
「どう、できた?」風呂から上がったのか、めぐみが声をかけてきた。
伝三郎は(またかよ。うるさいなぁ)と、無視する。
(めぐみ)「返事ぐらい・・・あ!」  
(伝三郎)「あれ?」
突然変な違和感が起きたと思ったら・・・手に持っていたのは、めぐみであった。
「え、え、ど、どういうこと?これは・・・」
彼女は人形のように小さくなっていて。しかも風呂上がりの全裸姿。
伝三郎は「やっぱり俺、相当酔っているな」と思ったが、考えるのが面倒くさい。
彼女は恐怖の顔をしているが、かまわずに彼女を包んでしまった。
「さあできた。あとは冷凍庫に入れるだけなんだろ」
その後はよく覚えていない。寝てしまった。

次の日、彼は目が覚めると昨晩のことを思い出した。
あれは夢だろうと、思いつつも「そうだ、めぐみ、めぐみぃ!」と、呼ぶが返事がない。
「まさかまさか・・・」
だんだん恐ろしい思いがよぎってくる。そして恐る恐る冷凍庫を開いてみると・・・
めぐみはカチンカチンになって、おにぎりと一緒に並んでいる。
「あああ!これはいったい!どうすればいいんだ!」
動転した彼ではあるが『解凍するときは電子レンジでチン』が常道だ。
大急ぎでやってみると・・・彼女は元の大きさに戻った。
合点のいかないことが多々ありすぎだが・・・とりあえず良かったのだろう。
そしてめぐみは「おはようございます。ご主人様・・・」と、やけに素直になっていた。
「これからは伝三郎様の忠実な妻、兼、しもべとなりますわ。よろしくお願いいたします」
何だ、この変わり様。昨日までとは別人ではないか。
「あっそうか」
この時になってやっと伝三郎は気がついた。
「あのラップはやっぱり調教がうまくなる、で、合っていたんだな」

                           ラップを使って 完

2025 03 29
Written by GreenIce