妄想別館 弐号棟


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ザ・チェンジ

凛太郎は花の丸学園高校の教師。
今日は、新2年生のオリエンテーションの引率、屋外にある美術園を見学に来ている。
美術園・・・広大な敷地内に多数の芸術作品があちらこちらに展示(放置?)してある。

「何をやってるのかな?」
生徒たちが群がって作品を見ている。
凛太郎が近づいてみると裸婦の石像が立っている。
「あー、なるほどこれか」
食い入るように見ている者。見ないふりをして見ている者。
「な―によこれ」「いやらしいな」と、声を上げる者。
こんな生徒たちの有様を見るのも、なかなかおもしろいのでアるが・・・
さてその作品である。
凛太郎も(うへ。実物とそっくりじゃないか)と、思った。
「おら、さっさと進まんかい」
生徒たちを先に行かせて、凛太郎は、ちゃっかり見ている。
いやらしい部分(いや、芸術と人の言う!)、胸はもちろん下半身もリアルに作成されている。
土手の膨らみや真ん中の一本線もぼやかし無し。はっきりと彫られている。
完璧だ。そっくりだ。「みごとだなぁ」と独りごちてイると、
(さとみ)「何をじっくりと見ているんですか」
なんと、さとみ先生が後ろに立っている。
ギクリとした。
(凛太郎)「いや、あの、この石像とてもよくできているなぁと・・・」
裸像をガン見しているところを見られた。とても恥ずかしい。
さとみはニヤニヤしながら「女性の裸に興味がお有りの様で」
(凛太郎)「いや、その、あの・・・いや・・・」
あたふたする凛太郎を見て、彼女は笑いだした。
(さとみ)「冗談ですよ。しかしよくできていますねぇ」
凛太郎はごまかすように横に書いてある説明看板に顔を向けた。
(凛太郎)「題名は『チェンジ 詠美』か。詠美は誰かの名前か。何がチェンジなんだろ?」
意味がよく分からないが、作者のインスピレーションなのだろう。
さとみも同じことを思ったらしい。
(さとみ)「『チェンジアップした詠美』『誰かが詠美にチェンジした』そんなとこかな」
彼女はニヤリとして、いたずらっぽい表情を浮かべた。
凛太郎をからかいたくなったのだ。
スーッと一本線を上下になぞりはじめた。
(さとみ)「男性がさわるとセクハラだけど、あたしがさわってもねえ。凛太郎先生、いえ、凛太郎さん」
見ていた凛太郎は、思わず「はいぃぃっ」と素っ頓狂な返事をスる。
(さとみ)「女はこうすると感じるんですよ。知ってますよね」
目を逸らしかけたが、やっぱり見てしまう。
(さとみ)「アハハ、やっぱり見るんですね」
彼は手をバタバタ振りながら弁解する。
(凛太郎)「先生、何やってんですか。そんなんじゃありませんよ。もう」

凛太郎は思わずさとみに背を向けたが、突然「キャッ」と、彼女が悲鳴を上げた。
彼は「え、どうしました?」と、振り返るが、彼女は何事も無いように立っている。
さとみは凛太郎の問いを無視して「そろそろ行きましょうか」と言って歩き出す。
(凛太郎:あれ・・・何でもなかったの?)
彼は呆気にとられながら後をついて行こうとしたが、
(凛太郎:あれ?前を歩いているのは誰だ?)
姿かたちがさとみ先生とは全然違う別人だ。
いやでも・・・彼女は確かにさとみ先生だ。
でもやっぱり・・・なぜか別人のような気がする。
(凛太郎:なんだろうこの違和感は!)
まるでさとみが誰かと入れ替わった感じがする。
誰かって・・・そうだよ!目の前の石像とそっくりなんだよ、と気がついた。
石像が人間になって歩いて行く・・・
彼女は振り返って、怪訝そうな顔をする。
(さとみ)「どうしたの。早く行きましょうよ」
(凛太郎)「あ、はい、いや先に行っててください」
(さとみ)「そうですか、それじゃ」
さとみは歩いて行ってしまった。
凛太郎は、もう一度じっくり石像を見てみる。
「あれぇ!」石像はさっきまでと明らかに変わっていた。
というよりも、
「この石像、さとみ先生にそっくりじゃないか!」
たぶん石像と入れ替わってしまったさとみを、茫然と見ながら、
「チェンジってそういう意味だったのか・・・」
題名もやっぱり・・・『チェンジ さとみ』に、変わっていた。

                              ザ・チェンジ 完

2025 03 30
Written by GreenIce