妄想別館 弐号棟


物語の部屋 その4


海の似合う少女

そこは由緒ある神社で、村人たちの神事に関する相談事もよく引き受けるんだとか。

「〇▽画廊のオーナーさんが来てるらしいよ」
「え、あの、画家で億万長者の?」
某オーナーは神主に何事か依頼し、箱のような荷物を置いて帰っていった。
そして・・・アルバイトのみおが神主に直々に呼ばれた。
澪は、比喩で例えると海が似合うような感じの高校生である。
健康的な小麦色の肌、明るく快活で何事にも積極的な性格。
神主はジロジロと澪を見ていたが「イメージ的にはピッタリかな」と独り言を言う。
「え、あたしが何でしょう?」
「いやなんでもない。ついてきなさい」と、連れていかれたのは蔵であった。
境内の奥の目立たないところにあり、関係者は近寄りたがらない。
不吉な云われのある物、正体不明の呪物などを保管しているそうだ。
いや、保管などという言い方ではふさわしくない。封印という方がピッタリかも。

神主はオーナーから預かった箱を、呪符の貼ってある台に置く。
箱を開けると護符が縫い付けてある布で厳重に包まれた何かが入っている。
「なんですかそれは?」
「絵だよ」
「絵・・・ですか?」
神主が布を開いてみると、確かに白い絵・・・?
いや、銀色の額縁に白い台紙があるだけだ。
「これが・・・絵ですか?何も描かれていないじゃないですか」
「いや、これはだな・・・」
神主の話によると呪いの絵だそうだ。
「の、呪いの絵?・・・ですか?これが・・・」
この絵は本来女性の裸体画だそうだ。昔むかしから何代も描かれ続けていたらしい。
『らしい』と、いうのは、不思議なことに2年もたつとその女性の絵はすっかり消えてしまうのだ。
そしてその都度、あのオーナーは、おはらいしに、この神社にやってくるということである。
「はあ・・・それではこれからお祓いをするのですね」

その時に神主のスマホが鳴った。
「ちょっと待っててくれ」神主は蔵の外に出て行った。
澪は置いてある絵を見て考え込んでいる。
「呪いって言ったって、何が何やら・・・あれ?」
気のせいか絵の中が光っているような。
驚いたことに何か浮かび上がってくる。
やがて光は海辺の風景になった。
「あーすごい。なにこれ、絵が動いているじゃない」
春の風景だろうか。のどかで穏やかな波がザーザーと砂浜に打ちつけている。
風や波の音、海鳥の鳴き声も聞こえる。
澪もいつの間にか、浜辺の波打ち際に立って、足を波に浸している。
「キャッ、本当に冷たい。でも気持ちいい」
波の冷たさや流れもたしかに感じる。
「あれ、あたしいつの間にか裸になってる」
彼女は驚いたが、嫌悪感や羞恥心がまったく起こらない。
全裸であるにもかかわらず、足を開いて立ち、なびいている髪の毛に手を添えた格好で・・・やがて動かなくなった。

神主は澪が絵の中で動かなくなった頃を見計らって蔵に戻ってきた。
「今回は思ったよりも簡単に済んだな」
裸体画の被写体となった澪をしげしげと見て、
「見事な裸体画が出来上がっているじゃないか」
『海辺にたたずむ、全裸の瑞々しい少女』
海の少女。まさに澪はピッタリの被写体だろう。
呪いの絵は、少女を喰らって生き返った。
今回、絵のご所望は、海の似合う少女。
澪は条件に適ったわけだ。
神主は丁寧に布を掛けて箱に納めた。
そして一言「オーナーに返すのもったいないな。でもこれでお祓いは済んだな」

翌日オーナーが絵を取りに来た。
オーナーはどこかの骨董屋で、この絵を手に入れたらしい。
この絵に生贄を与えると、事業がうまくいくそうだ。
そしてオーナーは裸体の少女を楽しむことができる。
「それではまた2年後に来るよ。
そうだなぁ、次の絵のご所望が・・・夕暮れの中をたたずむような女だといいなぁ」
神主は心の中で(チェ、贅沢ぜいたくなやつめ!)と思ったのだった。

                                       海の似合う少女 完

2025 03 30
Written by GreenIce