かみをきる
「ショートが好き」とカミングアウトされた時、私は胸の下まである髪の毛を眺めながら曖昧に「へえ」と相槌をした。あまり重く受け止めていなかったし、私のことを杢太郎さんが愛してくれていることはわかっていたから、敢えて杢太郎さんの好みにしようなんて思わなかった。けれども、杢太郎さんとぼーっとテレビを一緒に見ていた時。とあるアイドルグループのパフォーマンスを見ている時に、「あの子かわいいなあ」といったことを聞き逃さなかった。その子はショートヘアで透明感のある華奢な可愛らしい女の子だ。
「へえ〜、杢太郎さん、やっぱああいう子が好みなんだ」
「まあ、かわいいなあとは思うよね」
「ふーん」
対抗心を燃やすように、次に出てくる男性グループの中に自分の好みの男を見つけようとするが、全然見つからない。仕方ない。私は杢太郎さん以外、本気では好きになれないようだ。なんだかとても悔しかった。悔しさからか、私は嫉妬心をあらわにしてしまう。
「杢太郎さん、やっぱりショートの子が好きなんですか?」
「え?まあ髪の長さだけでいったら、短い子の方が好き、かなあ」
「……私、長いですけど」
「夢主も絶対ショート似合うのに」
「……絶対に切らない!」
子供みたいにいじけてしまう。ただ、杢太郎さんはそういう気分になってしまった私の扱い方をよくわかっている。
「髪型は確かに短い子の方が好みだけど、俺は夢主が好きだよ?」
「……ずるいですね」
「そうか?」
優しく頭をぐしゃっと撫でてくれる杢太郎さん。やっぱりこの人の優しさが好きなんだよなあと思いながらも、私が突然髪を切ったらどんな反応をするのか。それもすごく興味が湧いた。
「で、切るの?本当に?」
「……お、お願いします!」
行きつけの美容院で担当の宇佐美さんにそう言うと、怪訝そうな顔をしながら確認をとられる。いつも「長さを整える程度で」としかお願いをしない私が、いきなりバッサリ切りたいといったらそれは驚くだろう。
「後悔しても知らないよ?最初はショートボブくらいにしたら?こんな感じで」
宇佐美さんが見せてきたのは、最近杢太郎さんがテレビで可愛いといっていたアイドルの写真だった。確かにこのくらいの長さであれば、失敗したと思ってもまた伸ばすのは容易いだろう。
「じゃあそれで、お願いします」
「はいよ。後でクレームだけはやめてね」
ハサミの音と、パラパラと床に落ちる髪の毛。手際よく整えられた私の髪の毛はあっという間に軽くなっていた。
「うおっ……予想以上に似合うね」
「え、本当ですか?」
「彼氏、びっくりするんじゃない?」
「だといいんですけど」
そんな会話をして代金を支払い美容院を出る。美容院の後にご飯を食べようと杢太郎さんと約束していたから、約束の場に軽い足取りで向かう。先についていた杢太郎さんに駆け寄れば、びっくりした表情を見せる。
「え……髪、どうしたの?」
「切っちゃいました。どうですか?」
「あ、えっと……、その、とりあえずうち来ない?」
「え?!ランチじゃなくてですか?」
「その……そんな可愛い姿、ちょっとまだ周りには見せたくない、かな」
「……!!」
びっくりしてフリーズしていると、杢太郎さんにぎゅっと手を握られる。私はその手を握り返して杢太郎さんにエスコートされながら、杢太郎さんの家にたどり着いてしまった。誘導されるがまま、杢太郎さんの家に入れば、玄関先でぎゅっと抱きしめられる。その場で深呼吸をする杢太郎さんに声をかけようとすると、同時に杢太郎さんからの声が聞こえる。
「絶対似合うと思ってた、可愛い」
愛おしそうに私の髪を撫でる杢太郎さん。ちょっとだけ意地悪したくなって、悪戯に笑いながら聞いてみる。
「……あのアイドルちゃんより可愛いですか?」
杢太郎さんは、「アイドル……?」とまるで自分が発言したことを忘れたかのようにつぶやく。
「ほら、あの日一緒にテレビで見てた時。ショートの子、可愛いって言ってたから……」
「ああ、あれか……」
そう言うと杢太郎さんは私の髪にキスを落とす。びっくりして杢太郎さんを見れば、柔らかく笑っている。
「そんなの忘れちまうくらい、夢主が一番可愛い」
恥ずかしい言葉をサラッと発言する杢太郎さん。恥ずかしさを誤魔化すように杢太郎さんに抱きつけば、杢太郎さんもそれに応じるようにぎゅっと抱きしめてくる。
イメチェン作戦はどうやら大成功らしい。
(金カ夢文字書き24時間一本勝負で掲載したネタです)