大学の近くになんでも3日かけて作られるショートケーキが売りのケーキ屋さんが出来たらしい。流行り物に敏感な母は早速仲のいい友人と足を運んだらしく、「こーんな小っちゃいのに540円よ?!こーんな、こんな小っちゃいのに!まあでも美味しかったわー!コンビニスイーツとはワケが違うわね!」と、学校から帰ってきた私に鼻息荒く語ってきたのは記憶に新しい。

ということらしいから、今度一緒に冷やかしにいきましょうやと近所に住むショートケーキが好物という見た目によらず可愛い嗜好をもつ3つ年下の幼馴染に三下臭プンプンのメッセージを送ったところ、「ウザい」と返事がきてたのは昨日の夜。返事なんてさらさら期待していなかった私は、幼馴染の『ウザい』という言葉にある意味度肝を抜かれた。さらに返事がきたとしても「無理部活」と断られるだろうなと思っていたのに「なまえの奢りね」という文面に思わず「えっ?…え?」と声を漏らした。ちなみに、1度目のえっ?は「私の奢り」というフレーズに対して、2度目は「…え?ていうか一緒に行ってくれるんだ」に対してだ。給料日前のいま、中々の痛手ではあるが蛍は年下だし、普段部活頑張ってるし、うん、仕方ない、私のバイト代でとびっきり美味しいショートケーキを奢ってやろうじゃないか!

蛍はいつも部活で平日は帰るのが遅いから土日の方がいいかなと思っていたが、なんでも今日は体育館の点検があるらしく放課後が空いてるとのこと。
じゃあ5時に現地集合で、ということになり講義が終わるなり件のケーキ屋の前に来たわけだが、待ち合わせ時間を30分過ぎても蛍は現れない。あれれ?おっかしいぞー?と某小学生探偵の如く頭をかく。いくら意地悪な蛍といえども、社会的ルールに反する嫌がらせはしてこない。
自他共に認める楽観ガールの私といえども流石に心配になってきた。まさか、電車でここに来るまでに何かあったとか?それとも駅で何か事件に巻き込まれたとか?
『ヘイボーイ!ワッツハプン?』
焦りを悟られないよう、南海岸沿いの陽気なアメリカ人的テンションでメッセージを送る。すると間もなく既読になり『駅まで来て』と簡素な文面が表示された。駅まで来てって、まさか場所がわからないとか?いや蛍は方向音痴とかいうそういう残念で可愛いスペックは備えてない。ハッ!もしや、ヤンキーに絡まれてるとか?!だとしたら危ない!私に対しては生意気で可愛げのない蛍だけど、勉強ができてバレーも上手で将来何をやらせても成功間違いなしな優等生の身に、私のくだらない誘いのせいで何か起こってしまったとしたら、月島ご一家に死んで詫びるしかない。
屈強な男達に取り囲まれた蛍をどう助けるべきか作戦を練りながら走ること3分、なんと蛍を取り囲んでたのはマッチョで怖そうなオニイサンではなく、短いスカートをひらひらと揺らす可愛らしい女子高生だった。あの制服はうちの大学の近くにある女子校のだな、可哀想に…男に飢えたハイエナガールに捕まっちゃってたのね…。


「よーっす!待てども待てども来ないと思ってたら逆ナンされてたなんてコンチクショーめ!憎いね!よっ!ナイスガイ!」


ややテンション高めに助け舟を出すつもりで包囲された蛍にウインクを投げながらそう声をかける。するとアサシンのような視線をお返しされ、蛇に睨まれた蛙の気持ちが痛いほどわかった。


「ごめんね〜お話中のところ悪いんだけど、コイツ今彼女いるんだわ!悪いけど諦めてね〜」


訝しげに私を見てくる女子高生たちに内心ビビりながら押しのけ、蛍の腕を掴み足早にその場を立ち去った。後ろから「ナニアイツ…ムカつく」とか「ブスのくせに…」とか聞こえてくるけど気にしない気にしない!あ、やべ、目頭熱くなってきた。
ズンズンと歩く私の隣にいる蛍は相変わらず不機嫌だし、見ず知らずの女子高生たちには好き勝手言われ放題だし、私のメンタルはズッタズタだ。


「い、いやぁ〜災難だったねえ。まあ蛍カッコいいから逆ナンもされちゃうよね!あっ!あそこ歩いてる美人!私のサークルの先輩なんですわ!いやはややっぱり蛍には女子高生より年上の女性が似合いそうだなあ〜!」


「……」


「無視かよ!」


オイ!と軽くツッコミを入れるが相変わらず仏頂面の蛍にこれ以上なんと声をかけてたらよいのかわからなかった。まったく、これから美味しいショートケーキを食べるというのに、もっと楽しくいこうぜ?そんなことを思っていると、


「なまえも、年上じゃん」


ボソリと、小さくそう呟く蛍に私は暫く固まった。し、しまった。私はなんて高飛車な発言を…!年上の女、それは私も当てはまるが私は別に自分と蛍が釣り合うだなんて、そういう意味を込めて言ったわけではないが、そう捉えられてもおかしくはない。


「ちっ、ちがっ!ちがうの!ごめん?!あの、年上っていっても、その中でも見目麗しいというか、クールビューティーな方が蛍とはお似合いだろうなあと思っての発言でありまして…!」


「…ハァ?」


「ああああごめん!?クールビューティーはお気にめさないか!じゃあ可愛い系だ!スイーツ系な大人女子だな!うんうん!そっちも似合う!」


「なまえが年上なのは事実でしょ」


「いやあ、まあ、そうなんだけど私は可愛くもないし美人でもないからなあ…同じ土俵には上がれないっていうか…」


「可愛いとか美人とか、個人の主観で分類される基準に興味ない。それに、」


僕はなまえのこと、可愛くないとか思ったことない。

さらっと付け足された蛍の言葉に、私はまたしても固まる。な、なんてことだ…。


「うわぁ〜…なんか、本当ごめん」


「?」


「大丈夫!さっき女子高生たちにブスって言われたけど気にしてないから!いやでも、はぁ〜…まさか、蛍に気ぃ使わせちゃって…本当、年上なのに不甲斐ないなあ」


「……なまえって終わってるよね」


「え?なにが?」


「女として。反応も思考も」


「え?!追い打ち?!」
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