伸ばせる関節を全て伸ばし、つま先立ち、いやもはや親指だけで全体重を支えロッカーの上にある段ボールを取ろうとするがこれがなかなか届かない。脚立でも持ってきたら一発で取れるのに、それをしようとしないのはあと2センチ私の身長が高ければ届きそうな位置にあるという、なんともチャレンジ精神煽られる状況にあるからだ。


「ウォォ伸びろ私のDIP関節…!」


「戻ってこないと思ったら…1人でなに遊んでるの」


「あ、及川!サイコーに良いタイミングで来てくれるじゃん!あの段ボールちょっと手前にズラしてよ」


「は?なんで?」


「いやあと少しで届きそうなんだけどさ、どっこいそうもいかないんですわ」


「可哀想に、チンチクリンは大変だね」


「ウルセッ!これでも160センチあるんですー」


私の言葉に160センチしかないんでしょ?と鼻で笑いながら及川は、どんなに私が頑張っても届かなかった段ボールを背伸びすることもなく取ってしまった。


「うわ、これ、埃まみれじゃん。クッサ。なまえちゃんと部室の掃除してよね」


「こんなとこまで掃除するほど暇じゃないから。ていうか、ズラすだけで良かったのに。ありがとね」


「ズラすのも取るのも手間変わんないでしょ」


及川から段ボールを受け取るとズシリとした重みが手に伝わった。こいつ、こんなものを軽々とあんな上から取ったの…?


「いやーまじ助かったわ。サンキューサンキュー」


「べつに、いいよ」


「…」


「…」


「…あのさ、どいてくんない?」


監督からこの段ボールを持ってくるよう頼まれたから、早く戻りたいのに目の前の大男は私の前から一歩も動こうとしない。何か言いたげな様子をしているけど、一体何なんだ。私は岩泉ほど及川の気持ちを汲み取ることはできない。目で訴えるな、言葉で伝えろ。




「お礼は?」


「は?いや何回も言ってるじゃんありがとって」


「言葉なんかいらないね」


なるほどあの目は謝礼を訴える目だったのか…。くそうやっぱりそうだよな及川が何もなしに私を助けてくれるわけないよなしくじった。
ごめん今日財布67円しか入ってないと伝えると、及川はまるで道端に痰を吐くオッサンを見る女子高生のような目つきで私を見てきた。え、やだ、泣きそう。部活内暴力反対。


「仕方ないなあ」


そう言ってわざとらしいため息をつきながら、及川は私の後ろにあるロッカーに手をついた。


「な、何故に壁ドンを」


「さあ、何でだろうね」


「て、ててていうか近いんですけど」


「そりゃあ、チューするんだから近くもなるでしょ」


は、?
そう口を開こうとするが、及川の唇が私のそれに重ねられたことによって叶わなかった。一瞬暗くなった視界はすぐに元に戻り、したり顔の及川が目の前にはいた。


「あん、た、バッカじゃない?!」


「ごち」


口の端をぺろりと舌なめずりし、何事もなかったかのように私の手から段ボールを奪い部室を出て行く及川の背中を呆然と見送る。このあとどんな顔をしていけばいいんだろう。


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