宮城の冬の肌に刺すような寒さは、何年経っても慣れる事はない。夏は冬の寒さが恋しくなるが、今は夏の暑さが堪らなく愛おしい。日本の四季は美しいというが、春と秋だけでいいんじゃないかと思う。最高気温5度とかいうクレイジーな天気予報は当たったらしく、腹巻にネックウォーマーレッグウォーマ、貼るカイロを背中とお腹に装着していてもまだ寒い。
「ううう寒い〜お疲れ〜」
「ウワ、なまえなんなのその格好ベイマックスみたい」
「寒いから着込みまくったらこうなった。てか、天童、今日五色はどうした?」
体育館に入って10秒経つが、いつも私が来るなり「なまえさん!お疲れ様ですッ!!」と挨拶をしてくる五色の姿が今日は見当たらない。おかしいな、トイレでも行ってるのかな。
「あぁ、工ならインフルだってサ」
「え?まじ?工、インフルったの?」
「ほんと、バカだよね〜。予防接種受けときゃよかったのに」
「電話」
「ハ?」
「インフルに電話する」
「インフルに?え、ナニ?インフルって喋れるの?」
そんな天童のツッコミは無視しつつ、無料通話アプリで五色に電話をかける。隣で「あーあ、工可哀想に。寝込んでるだろうにナァ〜」と天童が態とらしい大声で呟いてるがそんなのは気にしない。数コール待つと、『…も、もしもし』と掠れた覇気のない五色の声がスピーカー越しに聞こえた。
「あぁ、もしもし?五色?生きてる?」
『辛うじて生きてます…』
「インフルったらしいね」
『はい、汚染されました…不覚です』
「私も汚染させてよ」
「イヤイヤ何言ってるのなまえ」
私たちの会話を聞いていた天童が呆れたように言ってるが私は至って大真面目だ。ほしい、インフルエンザの菌が、私はほしい。インフルエンザに罹って、一週間丸々と学校も部活も休みたい。ちなみに生まれてこの方、高校受験の時に一応しただけで、インフルエンザの予防接種はそれ以外受けたことがない。だって、かからないんだもん。
とはいえ、あの万年健康優良児の五色をダウンさせるほどの菌なら、私にも感染するかもしれない。そんな期待を込めて五色に頼み込むが何も返事が返ってこず、不審に思い「五色?」と名前を呼ぶ。
『…ダメです、なまえさん』
「なっ…?!なんで!」
まさか五色に頼みを断られる日が来るとは思いもしなかった。飼い犬に噛み付かれたような気分だ。
『インフルエンザって、すごく、しんどいんです』
「らしいね。でもそれも覚悟の上だよ」
『…俺、好きな人にこんな辛い思い、させれません』
「そこをなんとかっ、……え?」
『…失礼します』
ピロン、と通話終了の文字が表示された画面を呆然と見つめる。
「天童よ」
「なに」
「インフルじゃないのに顔が熱い」
「なまえって、本当バカだよね」
熱のこもった五色の声が耳元に残っているかのようだ。あのバカ、早く元気になりやがれ。
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