「純!七海と三人でお昼食べに行こうよ!」
「純〜、昼飯いこーぜ」
『…え、あ…』

純の周りには昔から、人が集まる。

『じゃ、じゃあみんなで行こ…っ』
「いいね!夏油先輩もいるし!ね、七海」
「このメンバーで食事って…誰が得するんですか」
「悟の全奢りだって」
「はぁっ!?ふざけんな傑っ!」
『おっしゃー!叙◯苑に繰り出すぞみんな!!』
「調子乗んな!!」
『いてっ…!』

それは相手が異性だろうが、同性だろうが、歳上だろうが、歳下だろうが関係なく。術師には珍しい根明で楽観的な性格の純は、高専の中では貴重な存在だ。おまけに…美人で可愛げもあれば、そりゃあ周りに人も集まる。

『あ、七海だ!』
「…………」
『お〜い!お疲れ七海〜!』
「キモッ…」
『…あぁ?今なんつったクソサングラス』

だから僕はよく…。

「なにが"お疲れ七海☆"だっ!鳥肌立つわバーカッ」
『お疲れ七海☆なんて言い方してねーわ!』
「今さらぶりっ子してもかわいくねーんだよ!」
『人を不快にするよりマシです〜』
「性格ブスも十分不快」
『はぁっ!?』

いろんな奴に嫉妬して、その度に純に当たり散らしてた。
理由は簡単。初めて本気で好きになった女があまりにも理想的で、でも自分の思い通りにならないのが気に食わなかったから。
まあそれは大人になった今でも変わってないんだけど。



「ねぇ純ちゃ〜ん」
『はい?』
「はい?じゃないよ。僕に言うことあるよね」
『え……』

高専にある純の仕事部屋のソファにもたれ掛かり、少し不機嫌な声色でそう問いかけると今の今までPCのキーボードを叩いていた純の手がピタリと止まり表情を曇らせた。長い足を組み替えて、自分の隣に来いとソファを叩いた五条は見るからに…、

『怒ってますよね…?』
「そう見える?」
『見えますね…』
「ならやることあるでしょ」
『………』

余裕気に首を傾げてそう言った五条だが、口調は少しばかり攻撃的で相手に有無を言わせまいとしているよう。これは言うことを聞いた方がいいなと今までの経験から察した純は、仕事を中断して五条の隣に腰を下ろした。

「んで?なんで昨日七海と二人で飲み行ったの?」
『あ…』

気まずそうな表情を浮かべている彼女の髪に手を伸ばし、指に絡ませ口角を上げて問いかける。その瞬間、あからさまに『やってしまった…』と片手を胸に当て目を見開いた純。

「しかも僕に黙って」
『ごめんなさい…てっきり言ったとばかり…』
「お前本当、学習しないね」
『…昨日は忙しくて、だからあのっ…』
「聞きたくない。今僕がすっごい嫉妬してんの分かる?」
『…えっと…はい。分かります。ごめんなさい』
「あのさ。一個いい?」
『…なんですか?』

人差し指にクルクルと純の髪を巻き付けては解くを繰り返しながら、五条が大袈裟な溜息を吐く。

「お世辞じゃなくて、お前は本当に良い女だと思ってる」
『………』
「七海も優秀な後輩だよ。信頼できるしね」
『五条先輩…』
「でもさ。"お前も七海も明らかに僕より劣る"じゃん」
『あ?…(イラッ)』

見下すような五条の口調に、純のこめかみに青筋が浮かんだ。

「なのになんでお前はいっつも七海贔屓すんの?」
『それは五条先輩の性格が悪すぎだからです』
「でもそれ以外は完璧。文句の付けようないじゃん」
『だからその性格が全ての長所を食い潰して…』
「はい!じゃあ純は今日からしばらく外出禁止!」
『えっ!?禁っ…聞けよ人の話!』
「自業自得だよ、反省して」
『…理不尽…!』

これ以上怒らせるのは得策ではないと分かっている以上、何も言い返せずしゅん…と肩を落とした純。逆らえずに言うことを受け入れるしかないその様子に、五条はニッと口角を上げて自分の膝の上を軽快に叩いた。

「おいで純ちゃん」
『……許してくれたら』
「これ以上機嫌損ねたくなかったら僕の言うこと聞いて」
『………』
「ほら早く」

悔しがる純の手を引き寄せ自らの膝の上に座らせた五条は、純の胸元に顔を埋めて長い長い溜息を吐いた。

『五条先輩…機嫌直して下さい』
「僕かわいそう。こんなに愛してんのに」
『………』
「なんか言ってよ」
『…私も愛してますよ』
「そうは言うけどさあ〜」

一瞬顔を上げた五条は子供のように頬を膨らませ「もっと愛してくんなきゃ伝わんないよ」と再び純の胸に顔を埋めて拗ねたような声色でそう言った。と同時に、右手でスカートから覗く太ももを撫でる。

『さり気なく触らないで下さい』
「純、僕のこと好き?」
『…もちろん。ちゃんと好きですよ。大好きです』
「…………」
『聞いてます?』
「……うん。僕も大好き。愛してる」

生徒の前では見せない子供っぽい一面。
いくつになっても変わらないのだろうかと微笑んでから、五条の柔らかな髪に手を添え撫で下ろした。

『…まだ怒ってますか?』
「僕ばっかりが純のこと好きみたいでムカついてる」
『…そんなことないですよ』
「だって七海といる時の方が楽しそうじゃん」
『先輩といる時だって楽しいですよ』
「そこは"僕といる時の方が楽しい"…でしょ、普通」
『………』
「つーか、純は五条悟の嫁になる女だよ?」

なんで気安く話しかけたり、出かける予定立ててんの?
もっと僕に気遣うべきでしょ?そう思わない?と、顔を上げた五条はプクッと頬を膨らませて拗ねている。その姿に純は口元に手を添えて小さく吹き出し笑った。

『あははっ』
「ちょっと。真面目に話してるんだけど」
『フフッ。いや、ごめんなさい…可愛いなって思って』
「………」
『先輩もそんな風に思うんだなって』
「お前だけは特別だって昔から言ってんじゃん…」
『…大好き。五条先輩』

いつまでも見つめていたくなる、大好きな純の笑顔。今しがた吐き出した不満なんてどうでもよくなるくらい、この優しい笑顔に癒され、満たされる。

「……純」

それと同時に湧き出た欲と愛情に促され、柔らかな頬を両手で包み綺麗な桜色の唇を強引に塞いだ。



*前  次#


○Top