しょうとくん。
電気屋さんのテレビだとか、駅前の広告塔だとか。彼の名前が聞こえる度、私はそれを考えずにはいられない。
「しょうとくん!」
「?」
「しょう、とくん……?」
「なんだ」
「しょ、うとくん」
「……何やってんだ?」
「う〜ん。やっぱりしょう、とくんかな」
なんだか久しぶりに酔いたくなって、焦凍くんを呼び出した。私の部屋で、チープな恋愛映画をBGMにビールの缶を開ける。
きょとんとした顔で不思議そうに首を傾ける焦凍くんがひたすら可愛い。
焦凍くん、焦凍くん、しょう、とくん。
「しょう、とくんはもっと自分の仕草が人を殺すことを自覚した方いいよ〜! 特に私とか」
「お前死んだのか?」
「ううん、生きてる」
「そうか」
えへへ、だらしなく私の顔が緩む。どうでもいい一つ一つの言葉に返事が返ってくることが愛おしい。忙しい彼と、暇な大学生をやっている私。普通科だった私にとって意味のなかった高校の体育祭で、ヒーロー科だった彼に一目惚れしたのだ。
「しょう、とくん。すっかり人気ヒーローだねぇ。私、寂しくなっちゃう」
「普段割と会ってるだろ」
「んー、そういうことじゃないってば〜」
しょう、とくんは、相変わらず天然だねぇ。笑って言うと、お前酔ってるだろ、と指摘された。
「だって、しょう、とくんお酒弱いから私ばっかり飲んじゃうじゃない! ほら、こんなに買ってきたのに!」
「さっきから、なんで変なとこで名前区切るんだ?」
「今更かよ」
何も言われないのをいいことに定着させようとしてたんだけど。……だって焦凍くんは、もうみんなのヒーローになっちゃったから。
「もう! なんでヒーロー名 『ショート』にしちゃったのー!」
「俺そういうのわかんねぇから」
「……高校時代は、名前呼びって私の特権だったのに」
「姉さんとかお母さんも名前呼びだったぞ」
「そうじゃないんだってば〜!!」
関係ないけど、お母さん呼びはずるいよね。いつまで経っても破壊力抜群すぎる。あと、エンデヴァーさんの名前も挙げてあげようよ。ね?
「焦凍くんがヒーロー名を本名にしちゃったせいで、今やみんなが焦凍くんを名前で呼ぶでしょ? ……私はヒーローの『ショート』じゃなくって『轟焦凍』を呼んでるんですよってわかって欲しくて」
訳がわからなさそうに私の話を聞く“焦凍”くん。
「だから、しょうとくんの“う”を強調してみたの!」
せめてヒーロー名を『トドロキ』とかにしてくれてたら私もこんなに悩まなかったのになぁ、なんて心の中で愚痴をこぼす。
「要は、特別感、ってことか?」
「……焦凍くんのくせに、珍しく察しがいいですね」
「じゃあ、今度からお前のこと名前で呼んでやろうか?」
「えっ本当に?!」
仲のいい男友達である緑谷くんや飯田くん、爆豪くんもまだ苗字で呼んでいる彼が、人のことを名前で呼ぶところを聞いたことがない。
「別にそんなこと気にしなくても、しょっちゅうこうやって会いに来てんだから、お前は十分特別だけどな」
そう言って微笑んだ彼の顔が私の瞼に焼き付いた。
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