後ろから名前を呼ぶと振り向く時にふわりと流れる髪が好きだ。尊敬する紅頼雄斗を意識した髪型はもちろん気に入っている。それはそれとして、その柔らかそうな感じが好きだ。もっと言えば、硬化の個性を持つ自分とは違って、身体全てが柔らかそうで、守りたいと思う。


「苗字!」
「あ、切島くん。おはよ」


学校へ向かう道の中、苗字の姿を見つけて名前を呼ぶ。振り向きざまに見れるその笑顔も好きだ。こんなことばっか考えてるなんて知られたら軽蔑されそうで怖くなる。こんな風に思う前、俺はどうやって苗字と接していたんだろう。必死に思い出してその時の風を装う。ほんとは全然違うのに。俺の思ってる綺麗な部分だけ勝手に伝われって無理を承知で祈ってみるけど、苗字は首を傾げてどうしたの?と聞いてくるだけだ。


「何でもねー」
「そう?」


まぁ無理に伝わらなくてもそのうち自分から漢らしく伝えることにする。それまでに苗字が俺のこともう少し意識してくれるように頑張ろう。


「痛っ!」
「どうした?」
「髪が何かに引っかかった!」


急に立ち止まった苗字を見ると伸びた街路樹の枝に苗字の後ろ髪が絡まっていた。無理に引っ張ろうとする苗字を止めて手を伸ばす。


「取るからちょっと動くなよ」
「ごめんね、ありがとう」
「うーん」
「取れそう?無理なら引き千切るよ」
「引き千切るってなんか怖え」
「こう勢いよくブチっと」
「落ち着け苗字」


とは言いつつどうなってこうなったのか、手先がそんなに器用ではないのも相まってなかなか解けない。揺れる苗字の髪からいい匂いがする。あれ、これなんかドキドキすんな。一度気づくと急激に意識してしまう。考えないようにして手を動かす。


「もうちょい」
「いける?」
「おっ!取れた!」
「わー!ありがとう!」


絡まっていた髪が俺の手からするっと抜けていく。なんで絡まってたんだってくらい俺の手をあっさり通り過ぎていくのが勿体ないと思う。通り過ぎきる前に掴んでしまった。さらさら、なんでこんないい匂いすんだ。


「切島くん?」
「え?あっ、わりぃ!!」
「何か付いてた?」
「え、あ、お、おうっ!そんな感じ」


嘘だ。でも思わず掴んでしまっただなんて言えない。苗字の髪からパッと手を離して、学校へ向かって歩き出す。その隣を苗字がちょこんと付いてくる。変なことして嫌じゃなかっただろうか。真正面から苗字の顔を見るのが怖くてチラリと横目で盗み見る。横顔にかかる髪の隙間から白い肌に赤が見えた。…あれ。


「なぁ苗字」
「なに?」
「なんで顔赤いの?」
「っ!」


うまく言えない



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