あの日、うっかり落とし物は海軍へ〜、だなんて軽く見ていた自分を殴りたい。
過去の自分よ、行くな。行ったら最後、地獄が待っているのだぞ。
ふらりと眩暈に襲われて、俺は遠い過去のことを思い出していた。
「なまえ少将!クザン中将がまた書類を置いて部屋から脱出!行方が分からないとのことです!」
「なまえ少将!此方新しく発行されましたグランドラインの手配書になります!」
「なまえ少将!ガープ中将から伝言が!”今日の訓練ぬるすぎるから儂がしごいとく!”以上です!」
書類の山に囲まれながら、どうしてか俺に報告をしてくる一般隊員さん達は、敬礼したまま俺の返事を待っている。
一気に言うなよな……俺の耳は二つあっても、頭は一つしかないんだぞう。
そう言いたかったが、なんだかんだと年功序列で少将にまでなってしまっている。
持ち前の見栄っ張りで、俺はビクビクとした内心を出さない様に彼らへと返事をした。
「クザン中将は……たぶん、南の方に足を伸ばしたんじゃないかな」
知らんけど。というか上司だからと言って、彼の行方を俺が知るはずもない。
「で、手配書はそこにあるファイルにまとめておいてください」
何故か俺の部屋には様々な海の様々な手配書がずらりとファイリングされている。居るのかこれは。
「ガープ中将には”僕もすぐ行きますので、5分だけお待ちください”とダッシュで伝えてきてください」
訓練官が居るはずなのに、ガープ中将が訓練を受け持つ意味が分からない。俺も中将の訓練を受けていたが、あれは控えめに言って虐待なので、俺はまだ見ぬ後輩くんたちを助けることにした。
俺の言葉を受けた海兵達が一斉に動き出す。ガープ中将のもとに戻ったであろう海兵の背中を見送りつつ、俺も席を立った。
「コートを」
正義の二文字が描かれたコートを肩にかけられる。
俺の執務室には、何故か男の秘書が3人控えているため、当然コートを肩にかけてくれたのも男だ。
せめて女の子の秘書だったらなぁ。セクハラか。
「少将、刀は……」
「いや、いい。今日の訓練場所はどこだったかな」
「新人訓練塔です」
「分かった。君たちは引き続き書類作成を」
ついでに、俺も息抜きしたって構わないよな!
颯爽とコートを靡かせて、”最弱の少将”こと俺は足を滑らせ窓から転落した。
なんっでだよ!!!
「あ〜らら、なんで此処が分かったのかね」
口に出しつつも、理由などすぐさまピンときた。
「ハッ!なまえ少将にご助言を賜りました!」
やはり。
自分の部下であるなまえ少将は、見聞色の覇気の使い手だ。本人はたまたまだ、等というが、彼のそのたまたまが外れた試しが無い。
調度今まさに愛車で海に出ようとしていたところを見つかってしまった。
見つかってしまったものはしょうがないので、渋々という態度を隠すことなく自らの執務室に戻る。
呼びに来た海兵には適当を言って、先に戻ってもらうことにした。
一応約束してしまったし、再度なまえ少将の手を煩わせるのもかわいそうだしなぁ。
クザンは出来るだけ遠回りをして戻ろうと、普段は足を向けない、今では懐かしさすら覚える海兵の新人が集まる練習塔へと顔を覗かせた。
いつも活気のある場所ではあるが、今日は一段とざわめきが大きい気がする。
「がっはっはっは、なまえ!お前まだまだ弱っちいのお!」
「中将に敵うようになったら、僕はとっくに大将です、よ!」
広い園庭では、何故か新人たちを差し置いて噂のなまえ少将とガープ中将が組み手を行っていた。
「あ。クザン中将!助けてください!」
助けを求められましても。何か返事をしようとしたが、なまえの声に拗ねたのかガープはより勢いをつけてなまえに拳を向ける。
これは止められないんじゃないかなぁ。
悪いね、とは微塵も思わず片手を上げる。
なまえも本気で言っていたわけでは無いのだろう。ガープ中将の拳を紙一重でかわしながら頭を抱えるという、無駄に高等な技術を披露していた。
「ええいなまえ、お前もやり返してこんか!」
「いえいえ、そんな余裕は、ありませ、ん!それに、これは、訓練ですからね!」
最低限の動きでガープの攻撃を避け、時には受け流すなまえは、何とも分かりやすいように新人たちに指導しているようだった。
「いい、ですか!敵と!実力差がある場合はひたすら逃げに徹しなさい!背中の傷は恥!?馬鹿言っちゃ、いけない。敵わないときは、ひたすら逃げて、命を持ち帰るのが!僕たちの役目、です!」
指導の言葉にガープ中将が面白そうに笑う。彼が本気でなまえに攻撃を当てようとしてたならば、指導になんてならなかったのだから。
それを加味してか、なまえの指導は続く。
「相手の隙をつけ! 驕りをつけ! 卑怯? なんとでも! 命を持ち帰りさえすれば! 僕たちの、勝ち、です!」
海軍基地で有名な、なまえ少将の掲げる正義。
「命があってこその! 正義!です!」
なまえ少将の足がふらつく。このままでは米神に拳が直撃してしまう。慌てて一瞬隙を作ったガープを見逃さず、なまえ少将のスキャレットが袖から飛び出した。
「はぁ、はぁ、あー、疲れた。ガープ中将、ご指導、ありがとうございました」
当然のようにスキャレットは弾かれた。けれど、ガープの拳に一筋の傷を作ったことになる。
命があれば、何度でもやり直せる。何度でも挑戦できる。そして一矢報いることも。
なまえ少将の指導は、うら若き血の気の溢れた海兵達の心に刺さったようだった。
「がっはっはっは、相変わらず弱いのぉ」
「ですから、ガープ中将に勝てるなら、僕は大将にでもなってますって」
軽口を叩くなまえの肩をガープがバンバンと叩く。今日はもう解散、とばかりになまえが背を向け歩き出すと、新人海兵達から「ご指導ありがとうございました!」と声が上がった。。
振り返ることなく手を振るなまえの背中には、あれだけ動いても落ちることのなかった正義のコートがかかっていた。
はぁーーー。
死ぬ。マジで死ぬ。新人を助けてやろうと思ったら何故か俺が犠牲になっていましたの巻。
クザン中将は高見の見物だし、ガープ中将は本気で俺をいじめてくるし。体育会系ってレベルじゃねぇぞ海軍。
俺はガープに叩かれた肩をさすりながら、結局さぼることもせず、執務室に戻るのであった。
今回はたまたま避けれたけど、もし二回戦ー!とかってなったら今度こそ死ぬしな。
執務室に戻り、肩にボタンで留めていたコートを脱いで秘書(男)に渡す。
やっぱ過去の俺、殴らなきゃだわ。
←