愛用の枕に頬をすり寄せる。干したばかりのお日様の匂いが彼女の身体を侵食していく。昔彼が『幸せを感じる瞬間だ』と言ってたこの匂いは、今まさしく名無しに幸せを与えているのか。
『サッチが呼んでたぞ』
エースがベッド側に立って名無し、と呼びかけると、名無しが鈍重な動きで仰向きになって、片目だけ開けてエースに視線を向けた。彼女は彼のそばかすあたりをじっと眺めて、もう今日は閉店です、と言った風に、いかにも怠そうに口を開く。
『私は居ないと伝えて』
『今日当番だろ?』
『…何でこんなに暑いの』
『この部屋は極寒だけどな。何度に設定してんだよ』
エースがキョロキョロと部屋を探す。名無しが起き上がろうともせずに彼の目的の物を指差すと、エースは困った風に笑ってエアコンのリモコンを雑に取った。そして表示された数字に眉を寄せる。
『18度?』
『暑いんだもん』
『じゃあ何で毛布被ってんだよ』
『これがこの気候の醍醐味なの』
『…次の島に上陸しそうなんだってよ』
『え〜やだよ。この部屋から出たくない』
意地でも動く気配の無い名無しに、エースはハア、とため息をつく。こうなった彼女は死んでも動かない事を彼は長年の付き合いでよく知っている。仕方がない、サッチに言って代わりに俺が当番やるか、と踵を返した。が、それは叶わなかった。
『…動けねーんだけど』
毛布の隙間からにょきっと生えているのは、白くて細い腕。そしてその矛先はエースのズボンの裾へと伸ばされている。正直に言うと、エースが少し本気を出せば軽くあしらえるものであったが、その気のないエースはくつっと口の中で笑うと、ベッド脇に座る。
『寂しいのか?』
『違います』
口ではそうは言ってるか、ゴソゴソと人一人分のスペースを空けて、向こう側にそっぽを向く彼女にエースは今度こそ声を出して笑う。そして素直に彼女のご要望にお応えする事に決めて、毛布の隙間から入り込んだ。
『…暑い』
自分から入れと言ったくせに、天邪鬼なことを言う彼女の出てけと言わんばかりの声のトーンにエースは動じることもなく、逆に体を寄せて名無しの隙間を埋める。
『そりゃあ、火だからな』
名無しの頸にかかる髪をかき分けて、そうして傷のない綺麗な彼女の頸に触れるだけのキスを送る。
『俺は熱いんだ』
end