◆◇ pk擬新シリーズネタ出しだったもの




「また1組死んだらしいよ。今度はシンオウ支部だってさ」

 不意にそう声をかけられて、ぼんやりと遠くにいっていた意識が戻ってくる。
 体を沈めているソファから頭だけを起こすと、そこには白銀そのものと呼べそうな男がいた。手にしている1枚の用紙は、口振りからして本部から届いたものなのだろう。それを見ながら深緋の目を細めて面倒だと言わんばかりに肩を竦める姿は、何度見ても画になるものだった。
 未だにいつものような回転をしないあたまで上手く合わない焦点をさまよわせながら、私は彼の言葉をなんとか噛み砕く。

「人間の方は......女、かな」
「ご名答。構成員は女、バディは男――オス、だった。急激な相互負荷で女はオーバーフロー、オスはオーバーヒート。結構な有様だったみたいだね」
「あーらら。また禁断の赤い実の被害者が出ちゃったわけね」
「本部からの明言はないけど、恐らくそうだろうね。前に任務でシンオウ支部に行ったことあるだろう?その時に俺は彼等をみたことがあるけど、あれはもう、ただの"構成員とバディ"で済ませられるような距離感でも空気感でもなかった」

 やっと動き始めたあたまで、同じ組織の者たちの訃報を耳に入れる。それに対して軽い調子で返せば、私のバディであるおとこはいつもと変わりない調子で答えた。
 知り合ってはおらず一方的な認知であろうと、知っている者が死んだ。だというのに、彼は僅かですら感情を動かした様子もない。相変わらず一貫して穏やかな表情を一瞥して、私は気怠い体をソファから起こした。

「恋に身を窶してお二人揃って仲良くオーバー現象。理解できないなあ......ねえ?」

 オーバー現象。ボーダーを超えた過剰な擬人化行為の末に起きる、人間の脳とポケモンの肉体のキャパシティオーバーを指す言葉。
 昔から、そうだった。元から仕事の度に文字通り命を削っている私たちだが、その中からは一定数、恋愛関係に発展するペアが出てくる。そして、そのペアは大体、構成員とバディ諸共、死ぬ。
 まるで心中だ。それに対して苦いものが滲んでいることを認めながら、私は自分のバディを見上げる。

「うん、本当に......理解、できないね」

 肩を竦めて私の言葉を肯定する彼も、私という人間――構成員のバディなのだから、人間であるはずもない。柔らかな白銀の髪と鋭い深緋の瞳をもつ彼は紛れもなく、人成らざるもの――ポケモンという、獣だ。
 獣というにはあまりに美しく、あまりにも人間と変わりない。それが擬人化という概念の恐ろしさだということを、この組織で数年を過ごしている私はよくよく知っていた。
 かつての話、人と同じ姿をとるポケモンは存在するとされていた。そのポケモンと、人間の間に子が宿ることもあったと、神話には記されている。しかしそれはあくまでも神話上の話である、というのが一般的な見解だった。だが、それは実在する。一般が知ることのない、秘密裏の世界で。
 擬人化が可能なポケモンは、存在した。限りなく低い確率で巡り合った縁の絡むただ1人と、互いを削り合い死へと突き進む、多大なる犠牲の中に。

「私たちがパートナーに巡り合えるのはさあ、最早奇跡的な確率だ、っていうのは重々承知してるけど......その、自分と奇跡になってくれた相手を必要以上に殺すのって、私はどうかとおもうんだよね」
「でも、心っていうのは、感情っていうものは、理屈だけで片付くものじゃない。それは俺よりも、人間であるきみの方がよく知っているでしょ?ナマエ」
「うんまあ、そうだよね。私もこんなことを言っときながら、明日には貴方を殺してるかもしれないし」
「大丈夫、安心してよ。俺はそこらのポケモンよりはずっと寿命も長いし、同種の中でもそれについては一等だから。きみからの可愛らしい酷使くらいじゃ、まだまだ死にやしないよ」
「そりゃあ、ありがたい。キュウコンさまさまだね」

 惹かれ合って死んでいくペアたちが跡を絶たないのは、自分たちが巡り合ったことが比喩ではなく本物の奇跡であることが根本的な原因だ。そのロマンティックから始まりパートナーとして死線を駆け、通常よりも容易く情愛が生まれる。そこからは文字通りに"命を懸けた恋愛"となり、そして正気が滅多刺しにされていく。
 恋に落なくても、パートナーと巡り合いこの組織に連れられてしまえば、どのみち待っているのはパートナーを伴った身体の破滅であることに違いはないのだけれど。迎える最期が同じならばいっそ......という刹那的な幸福を望むことが完全な悪徳だとは、私は一概には言えなかった。
 私の自虐に近い台詞に対して、やわらかくほほえんで返す優秀なバディ。彼のように擬人化したポケモンは皆、人間を魅了する何かをもっている。単純な、見目の美しさの話ではないのだ。
 彼らのその姿は、本当に人間と比べても全く遜色がない。けれど、やはり確実に、何かが違う。その"何か"が一体何であるのかは、私にも、組織の研究員にすらもわからなかった。人の姿をしていながら、人間ではない者。その差異から生じる漠然とした魅力は、構成員にとってはあまりにも危険だ。
 私のバディは擬人化者特有のそれに単純な見目の美しさが加算されている。人間である私にはその姿が異常なほどに魅力的に映っているが、かといってそれが情愛であるかと問われれば嘘偽りなく「ノー」と答えるだろう。

「"Amadeus"になったこと、後悔してる?」
「なぁに、それ。すごく今更じゃない?」
「はは、うん。そうかもね」

 背後からソファの背凭れに軽く腰掛けて、彼は私を見下ろす。
 その問いに何を返したところで、彼の反応が今と変わることはない。そんなことは、それなりに長くなった付き合いの中でよくよく学んでいた。
 彼は、私の体を起こしてから整えられていない髪を一房だけ手に取って、指からこぼれ落ちていく様を凪いだ眼差しで見届ける。

「きみの死に時は、Amadeusのバディである俺と共にある。きみが神に愛されし者で、俺たちの奇跡が神からの贈り物であったとしても――ナマエの死は、神にはくれてやらないよ。きみの死は俺の物で、俺の死はきみの物だ」

 自らを神の使者と名乗るような組織の一員とは到底思えない台詞。それを彼は当然のように、慈愛すら思わせる眼差しで紡ぐのだ。
我がバディながら、怖いもの知らずだと思う。けれどもそれに対して愉快だと笑ってしまうあたり、私も同じらしかった。

 DEL――Dei Enim Legatus 、神の使者と自らを称するこの組織で、私は神に愛されし者――Amadeusとして組織の未来のために命を削っていく。
 私の奇跡と共に、破滅という終わりへ向って。

BACK

short
GNoSIS