◆◇ 新刀に妬く源氏兄弟
主の御心が、一つの刀に傾いている。
それは決して露骨ではないが、そうして主自身にそのつもりが一切ないようだが、それでも俺には主の御心がそうであるように見えていた。
そうは思わないだろうか、兄者。そう問えば、迷いのない肯定が返される。ああそうだね、主はあの刀に随分とご執心みたいだ。主をじっと見つめる琥珀の眼には、常の穏やかさなど存在しない。同じ色彩の我が眼もまったく変わらないものを燃やしているのは明らかで、主も苦労するものだと笑ってしまいたかった。
我らと、今までの刀たちと、あの刀では一体何が違うというのか。簡単には心を許さないあの主が、あの刀には自ら手を伸ばした。自ら刀の頬に触れ、何事かを淡く色づく唇で紡ぎ、我らが、俺が、みたこともない表情で、微笑んだ。何故だ? それは、主に一体何を齎したというのか。
主、と。呼びかければいつだって返事をしてくれる。あれを、これをと話せば頷き、言葉を返してくれる。手に、髪に、頬に、触れることを許してくれる。しかし、彼女がその御手をこちらに伸ばすことはなかった。伸ばされた手を受け入れてばかりの主。誰にも傾くことがない主。
そんな主が、何故。
「やあ。酷い顔だね、ご両人」
通りがかった歌仙が笑う。
主の初期刀、最も主と長く在る刀。そんな立場の刀は、我らが見つめる主と刀の姿を目に認めたところで何も変わりはしなかった。
「確かに、主がああなるのは僕も初めて見るよ。けれど気にすることはないさ。主は彼を”特別”にはできないだろうからね」
そうとだけ語って、歌仙は主の下に去っていく。
兄者の様子をうかがえば、何やら興醒めだとでも言いそうな呆れた表情をしていた。
BACK