手向けにアネモネを







「あ、見て! 有里先輩だよ」
「今日も格好いい!!最高!」


冬も寒気を帯び、木々は色彩と葉を散らして、すっかり幹が目立つようになった。もうすぐ冬休みに突入する夕暮れの放課後で、下校時間よろしく生徒達もそぞろに帰宅する頃。
湊はひとりMP3プレイヤーに耳を当てて、喧騒を遮断。周りの目線も見ないふり、気だるげに校門前でポツンと立っていた。誰かと待ち合わせかと、周囲の女子達は悶々と考える。

「逢山先輩じゃない? 最近よく一緒にいるの見るよ」
「あ〜〜あのめっちゃ可愛い先輩か。なるほどね」

女の勘はさすがといえばどうだか、的中だった。
ふわりと冷気孕む風が湊のブルーを揺らした時。


「ごめん、お待たせ」
「ん。俺も今きたところだから」

先ほどの風のように、緩やかに、優しく、湊の顔が綻んでゆく。
凪いだ空間は、さっきよりも温度が上がったように見えて。

揺を見つめる視線は、恋をしている少年の様だった。


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