夏めく
実弥が現れた夏が今年もやってきた。
実弥はいつも居てほしいと時に現れて、いつの間にか消えている。
空気みたいな存在で。夏が終わればいつしか居なくなっていて。
いつも消えたら寂しい、と思ってしまう。
馬鹿だなぁ‥相手は幽霊なのに。
どこかの誰かさんな元カレとは大違い。居心地が良いって素晴らしい。
それでもまた来年、再来年と彼に会えますようにと。
願うのにどうしていいかわからなくて。
こんな時ばかり神頼み?
近くの神社に頻繁にお参りするだなんて。
彼の前では口が裂けても言えない。
夏の陽炎
『何作ってんだァ?』
「あらいらっしゃい。今夜はサラダ蕎麦だよ。シーチキンのせてポン酢で食べるの。」
『ポン酢?なんだそれは。うまそうだな。』
「食べる?さっぱり味だよ。」
『‥‥気持ちだけもらっとくわァ‥』
ポン酢知らなかったな。
どこの時代の人なんだろう?
ふわふわと私の後ろから手元を覗き込む実弥。
テーブルに置いてある鏡には写っていない。
「急に暑くなったよね。もうここも梅雨明けらしいよ。」
『やっと夏らしくなるな。』
「近くの大楠神社でも夏祭りがあるんだって。七夕の日だったかな?」
『誰かと行くのかァ?』
「別に誰かとかはないけど‥夏らしいなって思って。」
『だけどお前人混み苦手じゃねェか。すぐ人酔いするぞ』
「そうだね‥。遠目で見るだけかな?でも焼きそばとか箸巻き食べたいなぁ‥屋台のフライドポテトも美味しいよね!ちょっとシナシナなんだけど」
『芋揚げたやつだったかァ?』
「そうそう。フライドポテト。マックについてたでしょ」
『食いたいもんが食えるいい時代だなァ』
風呂上がりにクーラーをいれて小さな梅酒缶とスルスルとサラダうどんを平らげる。
美味しかった。
夏はぶっかけ蕎麦にかぎる。
じわじわお腹が満たってきた。
扇風機の前でァァァと言って胸元をパタパタと仰いで涼んでいると、実弥が慌てて近くによってきた。
『てめェ女なんだからもっと恥じらいを持てよなァ』
「だって暑いもん。実弥は汗かかないの?」
『どーだか。』
やっぱりだ。
自分の話は聞かれてもしてこない。
聞かれたらまずいのだろうか?
もどかしい、切ない気持ち。
もっともっと知りたいのに。
知れないの。わからないの。
実弥は私のこと昔から知ってる感じはするんだけどなー。
「はいはい。あーおばあちゃんのお萩食べたくなったなぁ〜お彼岸も近いから尚更だね。」
カチャカチャと皿を洗い、缶もゆすいでひっくり返す。
水切りしてから捨てよう。
『さっき飯食ったばかりだろ』
「甘いものは別腹でしょ?実弥も小豆好きだったじゃん‥」
『‥お前‥なんで‥』
はたと自分の発言に気づく。
私、今なんて‥?
自然と出た言葉。
そういえば実弥も小豆が好きだった。
実弥も、小豆が、好きだった‥?
「ーーっぅ‥頭いったぁ‥変だなぁ‥また頭痛が。あれ実弥?実弥ー?」
また居なくなった。
なんでだろう。やっぱり自分の事を知られるとまずいのかな?
とりあえず頭痛薬を探して水と一気に飲み干す。
しばらくソファに座ってテレビでもつける。
ああ、薬が効いてきたな。楽になってきた。
画面を見ているのに内容が入ってこない‥
いつも急にいなくなるよなぁ。
まだ話したかったのに。
「逃げる男はモテないぞ、実弥。」
そんな事を呟いて片付けをする。
もっと知りたい。
と言えたら。
なんて言うかな?
あなたに触ってみたいと言えば
どうするだろう。
それは越えたらいけない一線のような気がして。
聞いたら消えてしまいそうな気がして。
拳をギュッと握りしめる。
夏はまだ始まったばかり。
夏めく