どんどんガヤガヤと近所が騒がしい。
今日は七夕。
近所の大楠神社での夏祭りだ。


いつもは閑散としている神社も、今日は彩られ、キラキラ輝いている。

人混みが苦手な私は、ベランダからぼーっとその明るい光を見ていた。


今夜も実弥が出ない。
あれから数日現れてくれない。

不思議と不安になった。

実弥のことが知りたくて。
それがいけなかったのか?わからない。
今までの関係でいいじゃない。
つかず離れず心地のいい関係で。

まだ知りたい、触れたいだなんて欲を出さなければよかった。


だって実弥は、この世には存在しない人。
私が納得して自己完結すればいい。


もう会えなかったら?

どうしようもない不安と、会いたい気持ちが重なって。
私は家を飛び出した。



夏の陽炎





時刻は21時前。
自然といつもの大楠神社へと足が向いていた。
人混みは嫌いだけど、もう祭りの人も少ないはず。確か終了の花火が今から打ち上げられるはず。


花火を見ようとする人をかき分け、いつもの大楠の前に着いた。 

小走りだったせいか、汗がじんわりと滲む。


「今日は素敵に飾られていますね。」

その大きな大木に触れると、サラサラと木々が鳴っている気がした。


木に喋りかけるだなんて変なやつと思われてるかもしれない。


でも、縋れるとしたらここしかなかった。


大楠神社にお参りする事しか。

それが毎年繋いできたのかはわからなきけど。
どうしょうもないときは神頼みか。
都合がいいなと我ながら笑ってしまう。

神様なんていないのに。






「神様‥実弥が出てきません。」


どうか、どうか、また会えますように。あと一度だけでもいい。 

いや、本当はずっといてほしい。


彼のことが知りたいんです。
でも怖くて怖くて聞けません‥

まだ何も聞けてないのに。
聞いたら消えてしまいそうで。

臆病な私を許してください。

私は実弥が‥


ボロボロと涙を拭いながら大きな大木へと寄りかかる。

木の独特の香りがした。


「‥‥‥。」

何年も何十年も何百年も前から立っていたこの木は。
何故か懐かしくて、懐かしくて。
いつも涙が出そうになる。


辛いことばかりではなかった。
楽しいこともあった、何より幸せだった。
だって彼がいたから。
 

「あ‥花火‥」


ドン、ドォンと花火が打ち上げられた。汗ばむ腕で涙を拭い取り、少し先の花火を見た。
明るくて眩しくて。
時に滲んでしまうその光は、何かを思い出させてくれそうなのに、より一層寂しさを強調させた。


『よォ。泣き虫は変わってねェな』

「え?」

後ろを振り向くとそこには実弥がいた。でも消えたり出たりしている。


「さ、ねみ?」

『しけたツラしてんなァ‥そんなに寂しかったか?』


パァン、パァンと花火が散るたびに映し出され消える。

やっぱり影だ。



自身に影のできる時しか現れない。

光と暗闇がないと出てこれないのかな‥


「だって急に出なくなるから」

『別に居なくても俺は必要ないだろ?』

「必要だよ」

『たいしたことしてねェだろ。』

「してるよ。だって実弥は私の‥」

私の‥


ズキンズキンと痛む頭を抱える。

「‥っーーいったぁ‥また頭痛い‥ってあれ?実弥?」

『綺麗だなァ‥またお前と見てェな』

ふと、実弥の視線の先に上がる花火を見る。
キラキラと輝いては散るその光景に、思わず息を呑んだ。


「そうだね。今年初めてみたよ。花火、綺麗。」

『あァ』


連続で上がっている最中に気づいた実弥の体。


「薄くなって‥る?」


『自分じゃわかんねェもんだな。』



もともとは足元がなかったのに今は腹の下くらいまで消えかかっている。


ふわり、と風が吹いた。 


ずっと触れたいと思っていた実弥が抱きしめてくれている。

ふわふわとした、優しい暖かさで。


「実弥?どうしたの‥体が‥」

『ずっと心残りだった』

「まって、消えちゃう、」

『元気にしてっかなんて。お前ならどこでもやっていけるとは思っていたんだがなァ。』
   
「わかった、わかったから」


『今‥幸せか?』

「幸せ、幸せだよ、でも」

『お別れだ』

「実弥がいないと、私、私」
 



幸せになんてなれないよ


胸、肩、そして顔まで消えてきた。いかないで、消えないで。
花火よ、ずっと永遠に続いて。 



『‥名前』


初めて読んでくれた名前にピクリと肩が跳ねる。
優しく名前を呼ぶ声‥私知ってる‥
 


もっともっと呼んでほしかった。
その大きな手で触れてほしかった。





じわじわと消えていく顔。


目元には一粒の涙が。




『好きだ』


消え入る寸前で顔と顔が近づく。





一瞬強い風が吹いた








短夜