「まだまだァ!女だからってへばってんじゃねェ!」
 
「わかってますよ!男女は関係ないと思います!」

「相変わらず口は達者だな!左がガラ空きだァ!」

パシン、と竹刀が浜に落ちた。
朝日が海からじわじわと立ち上る


「いったー‥ちょっとは手加減してくださいよ!」

「お前にだけは絶対手加減しねェ。文句あんなら一本くらい取れ」

「今に見ておれですよ!めったんめったんに叩きのめします!う、わ!」

「オラ。すぐ鬼に首切られんぞ。」


「〜〜!!!もう一回お願いします!!」

ひらりひらりと立ち合いを見ては息を呑む。
若い男女が竹刀で稽古をしているところだろうか。

見覚えのある顔、声。



これは‥夢? 



夏の早朝。

凄いな‥砂浜で軽々と身を交わして打ち込んでいる。
男の人の立ち回りを見る限り、強い人だと思った。
女の子も必死についていこうと体制を立て直す。



あれは実弥だよね‥ 

ちょっと幼いかな?

顔の傷もあるし、傷が多い気もするけど。

声も実弥だ。

そしてあの子は‥私?

それに鬼って‥何?

突如目まぐるしく脳内を駆け巡る記憶。
今まで忘れていた、過去ではない前世の記憶。
 
「あ、あ、」

二人で過ごした楽しい日々と同じくらい
悲しくて酷い情景まで脳内に注がれる。
やめて、やめて、怖いよ。


あの時代、私は‥


ああ、また頭痛。
思い出そうと、知ろうとするとこれだ。


ズキンズキンと頭が割れてしまいそう‥。


まだ、続きを知りたいのに。
痛みに耐えられず、目の前が暗転する。





夏の陽炎


「夢‥か?」


大楠神社での出来事の後。
私はどうやって帰ってきたか覚えていない。

あの日、実弥は消えていなくなってしまった。
花火と一緒にお空に行ったのかなぁ?


普段より空を見上げることが多くなった。

まさか後ろに隠れている?
脅かそうとしているな?と、急に後ろを振り返るも何も無い。居ない。

虚しさだけが積もっていった。
 

また来年の夏、会えたらいいけど。


お別れって言われたもんなァ‥

実弥、私まだ実弥に話したいことたくさんあったよ。
実弥は今何してる?笑っている?

テーブルで頬杖を付き、窓からそらをみあげる。

するとリン、リンと窓辺の風鈴が鳴った。



そういえば実弥もよくこれを見ていたなぁ

鳴るたびにいい風だ、いい音だとあまり見せない笑顔が鮮明に思い出される。


「この風鈴の中‥鈴だ。珍しい。」

風鈴の中はそこらで売っているものとは違い、鈴に付け替えられていた。

「取れそうだな、古いものだし‥付け替えておこう。紐がどっこにあったかなー」


ボロボロになっていたつなぎの糸を切り、新しい紐で付け替える。
鈴も錆びだらけだ。


そういえばこれ、おばあちゃんの形見だった。


でもこれって実弥がくれたやつじゃ‥  


あれ?
そうなの?


風鈴の埃を払ってまじまじと見て見る。 

随分と古びているのに音はとても綺麗だ。


ベランダなら風がよく通る。
そう思って外に出て一度、二度、鳴らしてみた。



リン




リン




リン





『名前』




また強い風が吹いて、名前を呼ばれた気がした。
優しい、懐かしい声が聞こえてくる。



「あれ、あれ‥?涙が」

止まらない。
涙が止まらない。


思い出した。あの時。
私は鬼殺隊で、実弥と一緒にいたんだ。
鬼を討伐し、鬼舞辻無惨を倒した時のことを。

 そしてその後


実弥は‥  





「‥っっ‥‥‥さ‥ねみ‥実弥‥‥!」





私は涙を吹くことも忘れて


  


ボロボロと泣き崩れた。






朝凪