夏風
「なっつかしいなぁーーやっぱりもう埋め立てられてるかな?」
夏も終盤。
私は久しぶりの帰省もかねて、とある海辺へと来た。
晩夏に差し掛かっているのにミンミンと蝉が大合唱をしている。
海辺では尚の事日照りが強い。
じりじりと照りつける太陽を睨みつけては目がやられるのを感じる。
くっそー太陽め。
片手には向日葵。
片手にはお萩。
おばあちゃんの秘伝のレシピを引っ張り出しては朝からせっせと仕込んできた。
「初めて作ったのにやけに手際よく作れた。やっぱり昔作っていたのかな?」
実弥の好物。きっと作っていたんだろう。
前世、の記憶。
それを辿ってきたここは実弥とよく稽古をしていた海。
実弥の要望もあり、ここで散骨したはずなんだ。
だから墓参りもかねてご報告も。
少し埋め立てられているものの、浜辺があったので移動する。
「実弥、私‥生まれ変わってるよ。」
ちゃぷ、と少し海水をすくい取り、ただ透明な水をみていた。
じくじくと思い出す光景に、心臓が苦しい。
片手にもっていた向日葵の花を海へと投げた。
「おーーい実弥ーー!私は元気だよーー!心配しなくてもなんとかちゃんと生きてるよーー!」
向こうにゆらゆらと浮いては波で押し返される。
また手にとって投げる。
「実弥は‥私が気になって化けて出てきたんだね。」
そう言いながら作ったお萩をひとつ頬張り、海へと投げつけた。
実弥の好物。どうか届きますように。
海風でたなびく髪の毛が、涙に張り付いてしまう。
嘘、嘘だよ。
寂しい、寂しくて仕方がないよ。
生まれ変わっても実弥がいないと楽しくないよ
実弥、実弥、私は‥
何度も何度も波で押し帰ってくる向日葵を手にとって投げつける。
「‥なんでこっちに帰ってくるのよ‥早くあっちにいってよ!」
よく持って帰ってきてくれたじゃない。
喧嘩した日の夜とか、私の大好きな向日葵。
ご機嫌取りにだけど。
戻ってくる花に、実弥にいらないって言われてるみたいで。
意味のわからない感情がぐちゃぐちゃで、何に怒っているのかも分からない。
「‥うぅっ‥ふ‥うー」
何回目だろうか。
しおれた向日葵を掬おうと足首まで海につかると、ひょいとそれを奪われ、遠くの遠くに飛んでった。
「何バカなことやってんだァ?」
「へ?」
「相変わらず変なやつだなァ」
夏の陽炎
「実弥?」
「おう。」
「ほんとにほんとに?」
「ちゃんと居るだろ、海に食いもんなんか投げんじゃねェ。変なやつが居ると思ったらお前じゃねェか。何年ぶりだァ?」
思わず足の先から頭の天辺まで見る。透けてない、足がある。
何年ぶりって、何百年ぶりでしょう?
「わ、ちゃんと足ある‥幽霊じゃない‥」
「お前もな。」
「お前もってどういうこと?」
それから実弥と今までまのことについて話をした。どうやら私に似た幽霊が実弥の枕元に居たらしい。
「お前俺の影みたいにくっついてよォ‥ピーピーうるせェの。」
「そんな!私のとこにだってずっといたよ?」
「そりゃあお前が好きだからな。」
「‥もうからかわないでよ。ってことはお互いの枕元に出てたってこと?」
「お前が急に消えてなくなるから。思い出したんだよ‥名前。会いたかった‥」
「私も、私もだよ‥ずっとずっと会いたかったよ‥」
「遅くなって悪かった。お前が死んでんじゃねェかって‥。生きてて‥良かった。」
ふと頬を撫でる実弥に昔の感覚もフラッシュバックする。
「昔の実弥にも幽霊の実弥にも置いていかれると思ったら辛くて。でも会えた、また会えた」
実弥、実弥、
わんわんと溢れ出る涙をひたすらシャツで拭ってくれた。
鼻水もだ。
「もういなくならないで」
「どこにもいかねェ」
「消えないで」
「ずっと側にいる、約束だ」
「本物の実弥だぁ‥」
「まァた泣く。可愛いツラが台無しだぜ?」
「昔は可愛いなんて言ってくれなかったから嬉しい」
「‥‥うるせー。黙ってろ」
「この風鈴が思い出させてくれたの」
バックの中に大事に持ってきた風鈴。包んでいたハンカチを1枚1枚取って見せる。
青緑の風鈴。
実弥のイメージそのもの。
「覚えてる?」
「‥俺がやったやつだなァ」
「そうそう、猫の鈴に付け替えてくれたんだよね。」
「あの薄情猫。しっかしよォ‥ほんとに化けるとはなァ」
確かに。こんなこともあるもんだ。
お互いの想いが強くて繋がったのだろう。
「「化けて出てやる」」
声が揃って笑った。出会って初めての笑顔だった。
ポンポンと撫でられて、ふいに抱きしめられる。
ちゃんと感じる体温に凄く凄く安心する。
「やっと笑ったな。着てるもんが違っても顔は変わってねェ。ちんちくりんのままだ」
「ちんちくりんは余計です!」
「これからはずっと一人にしねェ。約束する。だから俺の側にいてくれないか?」
「‥うぅー‥絶対ですよ‥」
「まァ‥嫌って言われてもまた化けて出てやるよ。離さねェ」
「そのセリフそっくり返します」
「幸せにすっからよォ」
幾年も超えて紡いできた想いが繋がったこの夏。
これからの二人はどんな夏を過ごすのか。
浜辺の足跡が消えてはなくなった。
想いは繋がり、巡り巡って未来へと繋がる。
二人にとっての特別な夏を。
夏風
夏も終盤。
私は久しぶりの帰省もかねて、とある海辺へと来た。
晩夏に差し掛かっているのにミンミンと蝉が大合唱をしている。
海辺では尚の事日照りが強い。
じりじりと照りつける太陽を睨みつけては目がやられるのを感じる。
くっそー太陽め。
片手には向日葵。
片手にはお萩。
おばあちゃんの秘伝のレシピを引っ張り出しては朝からせっせと仕込んできた。
「初めて作ったのにやけに手際よく作れた。やっぱり昔作っていたのかな?」
実弥の好物。きっと作っていたんだろう。
前世、の記憶。
それを辿ってきたここは実弥とよく稽古をしていた海。
実弥の要望もあり、ここで散骨したはずなんだ。
だから墓参りもかねてご報告も。
少し埋め立てられているものの、浜辺があったので移動する。
「実弥、私‥生まれ変わってるよ。」
ちゃぷ、と少し海水をすくい取り、ただ透明な水をみていた。
じくじくと思い出す光景に、心臓が苦しい。
片手にもっていた向日葵の花を海へと投げた。
「おーーい実弥ーー!私は元気だよーー!心配しなくてもなんとかちゃんと生きてるよーー!」
向こうにゆらゆらと浮いては波で押し返される。
また手にとって投げる。
「実弥は‥私が気になって化けて出てきたんだね。」
そう言いながら作ったお萩をひとつ頬張り、海へと投げつけた。
実弥の好物。どうか届きますように。
海風でたなびく髪の毛が、涙に張り付いてしまう。
嘘、嘘だよ。
寂しい、寂しくて仕方がないよ。
生まれ変わっても実弥がいないと楽しくないよ
実弥、実弥、私は‥
何度も何度も波で押し帰ってくる向日葵を手にとって投げつける。
「‥なんでこっちに帰ってくるのよ‥早くあっちにいってよ!」
よく持って帰ってきてくれたじゃない。
喧嘩した日の夜とか、私の大好きな向日葵。
ご機嫌取りにだけど。
戻ってくる花に、実弥にいらないって言われてるみたいで。
意味のわからない感情がぐちゃぐちゃで、何に怒っているのかも分からない。
「‥うぅっ‥ふ‥うー」
何回目だろうか。
しおれた向日葵を掬おうと足首まで海につかると、ひょいとそれを奪われ、遠くの遠くに飛んでった。
「何バカなことやってんだァ?」
「へ?」
「相変わらず変なやつだなァ」
夏の陽炎
「実弥?」
「おう。」
「ほんとにほんとに?」
「ちゃんと居るだろ、海に食いもんなんか投げんじゃねェ。変なやつが居ると思ったらお前じゃねェか。何年ぶりだァ?」
思わず足の先から頭の天辺まで見る。透けてない、足がある。
何年ぶりって、何百年ぶりでしょう?
「わ、ちゃんと足ある‥幽霊じゃない‥」
「お前もな。」
「お前もってどういうこと?」
それから実弥と今までまのことについて話をした。どうやら私に似た幽霊が実弥の枕元に居たらしい。
「お前俺の影みたいにくっついてよォ‥ピーピーうるせェの。」
「そんな!私のとこにだってずっといたよ?」
「そりゃあお前が好きだからな。」
「‥もうからかわないでよ。ってことはお互いの枕元に出てたってこと?」
「お前が急に消えてなくなるから。思い出したんだよ‥名前。会いたかった‥」
「私も、私もだよ‥ずっとずっと会いたかったよ‥」
「遅くなって悪かった。お前が死んでんじゃねェかって‥。生きてて‥良かった。」
ふと頬を撫でる実弥に昔の感覚もフラッシュバックする。
「昔の実弥にも幽霊の実弥にも置いていかれると思ったら辛くて。でも会えた、また会えた」
実弥、実弥、
わんわんと溢れ出る涙をひたすらシャツで拭ってくれた。
鼻水もだ。
「もういなくならないで」
「どこにもいかねェ」
「消えないで」
「ずっと側にいる、約束だ」
「本物の実弥だぁ‥」
「まァた泣く。可愛いツラが台無しだぜ?」
「昔は可愛いなんて言ってくれなかったから嬉しい」
「‥‥うるせー。黙ってろ」
「この風鈴が思い出させてくれたの」
バックの中に大事に持ってきた風鈴。包んでいたハンカチを1枚1枚取って見せる。
青緑の風鈴。
実弥のイメージそのもの。
「覚えてる?」
「‥俺がやったやつだなァ」
「そうそう、猫の鈴に付け替えてくれたんだよね。」
「あの薄情猫。しっかしよォ‥ほんとに化けるとはなァ」
確かに。こんなこともあるもんだ。
お互いの想いが強くて繋がったのだろう。
「「化けて出てやる」」
声が揃って笑った。出会って初めての笑顔だった。
ポンポンと撫でられて、ふいに抱きしめられる。
ちゃんと感じる体温に凄く凄く安心する。
「やっと笑ったな。着てるもんが違っても顔は変わってねェ。ちんちくりんのままだ」
「ちんちくりんは余計です!」
「これからはずっと一人にしねェ。約束する。だから俺の側にいてくれないか?」
「‥うぅー‥絶対ですよ‥」
「まァ‥嫌って言われてもまた化けて出てやるよ。離さねェ」
「そのセリフそっくり返します」
「幸せにすっからよォ」
幾年も超えて紡いできた想いが繋がったこの夏。
これからの二人はどんな夏を過ごすのか。
浜辺の足跡が消えてはなくなった。
想いは繋がり、巡り巡って未来へと繋がる。
二人にとっての特別な夏を。
夏風