社会人になりたての頃、同じ会社の他部署との飲み会で出会った人と意気投合した。
何度か2人で飲みに行ったりした。
彼が仕事終わりに私の家まで迎えに来てくれて真夜中のドライブに行ったりした。
彼に片思いをしていた。
こんなに好きになるとは思わない位とても大好きだった。

そう。大好き、だった。

突然彼が転勤になった。
最初は連絡を取り合ったりしていたが、その頻度は減っていった。
でも、私は彼のことを忘れることなく、片想いのまま過ごしていた。

だけどある日、彼が私の職場に立ち寄った。
声ですぐにわかった。後ろ姿で確信した。

挨拶しよう。これでまた後からメッセージ送れるんじゃないかと思い、近寄って声をかけようとした時気づいた。

彼の左手薬指にはぴかぴかのシルバーのリングが付いていた。


一気に血の気がひいた。
いつの間に?

遠くで上司が「男の子生まれたんだって?おめでとう!」と言ってるのが聞こえた。

スーツ姿の彼の腕の中に、2歳くらいの男の子が、いた。



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ハッと目が覚める。
無呼吸だったのだろうか。息を久しぶり吸った気がする。

またこの夢だ。いつもここで終わる。
続きを見ようとしても見れない。
寝返りをうち、サイドテーブルに手を伸ばし、スマホで時間を確認する。2時半。まだまだ夜中だ。
たまにこの夢見るなぁと思いながら再び寝る体制に入ると隣に寝ていた実弥くんが私を抱き寄せた。

「…ん…」

無意識のうちに私を抱き寄せ、とても心地良さそうに眠っている。

昔々好きだったその人に指輪がついてたのは事実。2年前のことだ。目の前が真っ暗になったのも覚えている。だが今でも子どもが生まれた等の話は聞いてない。

さっきまで見ていたのは現実と夢が混ざり合った、妙にリアルな夢。
幸せから悲しみに変わった時の話。

実弥くんに抱かれながら、見た夢を思い出す。なぜかわからないけど涙が溢れでてきた。

泣きやめ。なきやめ。

私が今、好きなのは目の前にいる実弥くんだ。実弥くんは見た目は怖い。めちゃくちゃ怖い。だけど本当はとても優しい。とても温かい。今の私は実弥くんのことが大好きなんだ。
過去の片想いに囚われちゃダメだ。

「ん…タケ…?」

頭の上から掠れた声が私を呼んだ。

「…んだ…まだ2時半か…どうした?泣いてるけどまた怖い夢でも見たかァ?」
「う、うん…なんか…変な夢見たのかも…」

すると背中を優しくさすられた。

「タケが眠るまでこうやっててやるから安心して眠れ。」

ごめん、実弥くん。
変な夢なんだけど私の中では変な夢じゃない。「こんな夢見たんだ」って言えるはずない。

「実弥くん…」
「ん?なんだァ?」
「好きよ。大好きよ。」
「タケ、本当に大丈夫か?どこか痛いのか?」

何度も「好き」といいながら涙を流している私を見て狼狽える実弥くん。

「実弥くんは、私のこと、好き…?」

この問いかけに実弥くんのピタッと動きが止まった。
沈黙の時が流れる。

「……チッ……当たり前だろ。タケのこと好きだ…」
「さねみ、くん…よかった…両想いだ、ね…」

実弥くんから出た言葉に安心して、そして額に口付けされ、私は深い眠りに落ちていった。



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気がついて周りを見たら職場にいた。
また夢の中か…途中起きずに最後まで見れるだろうか…


「ひさしぶりだな!」

彼が私に気付き、声をかけてきた。

「ひ…久しぶりだね…その子は…?」
「俺の息子なんだ!」

彼の腕の中に抱かれ、ニコニコとご機嫌そうな彼にそっくりな男の子がそこにいた。

やっぱり、これはいつも見ることができなかった夢の続きだ…
夢なのに、胸がギューっと締め付けられる。
なんて答えが正解なんだろう。

「…っ…もー!!いつの間に結婚したの?!教えてくれたっていいじゃん!」
「悪い悪い。転勤先でいろいろあってさ。連絡しそびれてた。てかタケは彼氏できたか?」
「か、れし…」

わたしの、かれし…

「その反応、彼氏できたんだろう」

わたしの、すきなひと…

「よかったな!どんな人か教えてくれよ!」

私の大好きな人、それは…

「わたしの、彼氏は、見た目はすごく怖いけど、優しくて、私の全てを受け入れてくれる、心の広い人だよ…」

不死川実弥。

「そっか!いい人に出会えてよかったな!タケ、幸せになれよ。」

「うん。そっちもお幸せにね。」




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「よォ。お目覚めか?」

目が覚めると時刻は朝9時を回ったところだった。

「…実弥くん…おはよう…」
「夜は…あの…なんだ…大丈夫なのか…?」

頭を撫でられながら、かなり心配させてしまったことを知る。

「うん。夜は突然泣いてごめんね…だけど、もう大丈夫。実弥くんと一緒だから。」

きっとあの夢は私の心が私を実弥くんと2人の未来にむかって進ませるために見せてきたんじゃないだろうか。

「実弥くん。私を好きになってくれてありがとう。実弥くんのこと、大好きだからね。」
「バーカ。そんなの付き合い始めた頃から知ってるっつーの。俺の気持ちは好きとかいう言葉じゃ収まらねェ。」

実弥くんが寝転がってる私を起こし、ベッドの上で向き合うような体勢になった。

「タケ…愛してる。俺は何があってもタケの味方でいる。1人で何もかも抱え込むな。タケの泣いている顔を見たくない。俺がお前を守ってやる。だからずっと俺のそばにいてくれないか?」


目の前には顔を赤くし、照れてる様子の実弥くん。

もちろん返事は決まってる。

「こちらこそ、ずっと実弥くんのそばにいさせてください。何があっても私は実弥くんの味方です。そして、実弥くんの事を、愛してます。」


end

GOOD BYE, man











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