※原作ネタバレ含みます。
ネタバレNGの方はご遠慮ください。
※死を連想させる表現でます。
※個人的な解釈で作成してます。









私と実弥さんが出会ったのはまだ鬼が夜を脅かしているという迷信がまだ根付いてる頃だった。

明け方に玄関で音がしたので、家にある一番武器になりそうであろう包丁を手に向かったところに実弥さんは血まみれで倒れていた。
叫びそうになるのを堪え、家の中に運ぶ。
とりあえず身体中の血を拭き取り、傷の手当てをする。包帯を取り替え、消毒する。それを何日か繰り返していた。
だんだん顔色も良くなり、意識も戻ってきてからは少しづつ話をするようになった。

「目が覚めてよかったです。玄関先で倒れていた時はどうなることかと思いました。」
「助けてくれて助かった。礼を言う。」
「失礼ですが、お名前をお伺いしても?」
「……不死川…」
「私はマツタケといいます。不死川さん、傷が癒えるまでここでゆっくりされてください。」

熊に襲われたのかと聞くと「鬼だァ。」と夢見ごとを言ってた不死川さんにふふっと笑ってしまうと「嘘じゃねェ。」と鬼殺隊、日輪刀、鬼について、自分は風柱だということ、家族のこと。色々と話をしてくれた。
私も1人でこの広い家に住んでること、親はとうの昔に死んでしまったこと、色んなことを話した。
2人で笑い、たまに言い合いをし、とても楽しい時間が過ぎていった。

「不死川さん、って言いにくいんじゃねェか?普通に名前で呼べよ。俺も名前で呼んでもいいか?」
そう言われてからは「実弥さん」「タケ」と呼び合うようになった。
実弥さんの体調も徐々によくなり、2人で街を歩く事もあった。お店の人から「恋仲」と間違えられる事もあり、2人で顔を赤くして訂正したりした。


実弥さんがウチに来て10日と少し経った。傷の具合も良く、私は縁側で縫い物を、実弥さんは庭で剣術の鍛錬をしていた時だった。「リンジノチュウゴウカイギィィ!サネミィィ!!!イマスグシュウゴウゥ!!!」と鴉(実弥さんが言うには爽籟”ソウライ”くんと言うらしい)が叫びながら飛んできた。


「行かねェと。じゃあ、世話になったなァ。ありがとう」
「いいえ、実弥さんこそ、気をつけていってらっしゃいませ。また遊びに来てくださいね。」

頭をさげ、見送ると彼は一瞬にしてその場から居なくなった。
広い家に、ポツンと1人。寂しくなったような気がした。


数日後、「タケいるかァ?邪魔するぜェ」と実弥さんがやってきた。

「この前の礼を持ってきた。茶でも飲まないか?」
「え?いいんですか?ありがとうございます。どうぞ、お上がりください」


お茶を用意して居間に向かうが実弥さんの姿はない。庭を望む縁側に彼は居た。
隣に座り、湯呑みを渡す。
お土産でいただいたおはぎをお皿にもり、それも渡す。2人で黙々と食べる。
すると実弥さんが口を開いた。


「…近いうちに鬼舞辻無惨との決戦がある。それに備えて今鍛錬してるところだァ。」
「鬼舞辻って…鬼の首領でしたね…」
「もしかしたらタケとこうして茶を飲むのも最期になるかもしれねェな」
「そ、そんなことないですよ。実弥さんはまたこうして…「タケ。」

私の言葉を遮るように実弥さんが言ってきた。

「タケ。これが今生の別れになるかもしれねェ…」
「そんなに鬼舞辻無惨は…強いのですか…」
「ああ。恐らく死者も出るだろうなァ」
「さ、実弥さんは、強いから…戦いが終わっても、きっと…またこうやって…2人で縁側に並んで話をしたりできます…!今生の別れなんて言わせません…!」

目の前が涙でぼやけていく。

「実弥さん、死なないで…実弥さん、どうか生きて戻ってきて…」

涙が止まらない。手拭きで涙を拭うが溢れる。

「タケ。泣くなァ。」

肩を引き寄せられ、実弥さんに抱きしめられるような状態になってしまった。


「タケ。ここで過ごした数日、とても楽しかった。もし、俺が無事に帰って来れたら、俺と………いや、なんもねェわ。そろそろ行かねェと。」

パッと抱かれてた体が離れる。

「夜寝る時、戸締りしっかりしろよ」
「…はい…実弥さんのご武運をお祈り申しております…」


どうか、神様。
彼らをお守りください。



ーーーーーーーーーーーー



実弥さんが最後にウチに来てから1ヶ月が経った。
1ヶ月前の新聞に『深夜、とある山の中で大爆発発生!』『都会の方で大規模な地盤沈下発生!』『同じ日に発生。天変地異の前触れか?!』という記事が載っていた。記事ではなぜこのような事故が立て続けに起こったかはわからないと書いてあったが、鬼殺隊と鬼舞辻無惨の戦いだとすぐにわかった。
私は時間を見つけては実弥さんの無事を祈りに神社にお参りをした。

それからさらに1ヶ月が経った。
実弥さんからの連絡もない。やはり最終局面で…と不吉なことばかり考えていたが、実弥さんは戻ってきてるれると信じていた。

そんなある日のこと。聞き覚えのある声が空から降ってきた。

「カアァ!!サネミ!!モウスグ!!ココニクル!!!」

縁側から、走って玄関に向かった。
そこにはずっと会いたかった人が立っていた。思わず実弥さんの胸に飛び込む。

「実弥さん!!!!!!ご無事で!!!」
「タケ…悪かったな…すぐに連絡できなくて…」
「いいえ、実弥さんが生きていて下さっただけで…とても嬉しゅうございます…!!」

ギュッと抱きしめるとそれに応えるかのように抱きしめられた。


「タケ…やっと戦いが終わった…鬼のいない、平和な世界になったんだ…」
「実弥さん、お疲れ様でした。実弥さん、本当にここにいるんですね…実弥さん…お慕い申しております…」

思わず言葉に出してしまった私の気持ち。
その言葉を発した時、実弥さんの腕の力が強くなった。
 
「………タケ、俺以外のヤツと幸せになれェ」

いま、私を抱きしめている実弥さんから聞こえた言葉に目の前が真っ暗になっていった。

「な、なぜですか…わ、わたしのこと、嫌いになったのですか…?」

「そうじゃねェ。俺はタケの気持ちには応えられねェ……達者でなァ」


そう言って背中を向けて去っていく実弥さんを追いかけるが、追いつけるはずもなく途中で見失ってしまった。



ーーーーーー



トボトボと家に戻り、縁側に腰掛ける。
嬉しい気持ちから一転、地に落ちたこの気持ち。あ、私フラれたのか。
2人で過ごした日々のことを思い返す。

いつの間にか日が暮れ、夜になっていた。
涙は枯れることなく流れてる。
動きたくないが、動かないといけない。そんな時、人の気配がしてその方向を見てみると、上背のある派手な人が立っていた。

「おー、お前がマツタケか?」
「……あなたは誰ですか…」
「俺は派手を司る祭りの神、宇髄天元様だ。なんだその染みったれた顔は。大方不死川からなんか言われたんじゃねえか?」
「宇髄さん…音柱の方…ですか?…ここには実弥さん居ませんよ…どこにいるのかもわかりません」

宇髄さんが隣に座ってきた。

「宇髄さん…は何か御用ですか?」
「お前、不死川の事、どう思ってるんだ?」
「どう思ってるも何も…私は実弥さんに、慕ってるという気持ちをお伝えしたら他の人と幸せになれと言われてフラれたばかりですけど?」
「そうかよ…」
「失恋の傷に塩を塗り込むような事を言わせて満足ですか?もうお引き取りください。」

「タケ。話を聞いてくれねぇか?」
立ち上がり、室内に入ろうとした時だった。
宇髄さんが私の着物の裾を引っ張り、引き止めてきた。

「不死川のことについて、伝えたいことがある。聞いてくれないか?」

どうしてフラれた私が聞かないといけないんだろう。でも宇髄さんが悲しそうな顔をしていたから、聞かなければならないと感じた。

「不死川は…」とポツポツと話し始める宇髄さん。
最終決戦の際実弥さんがかなりの大怪我を負ったこと、大切な弟さんを亡くしたこと、そして“痣”が発現したこと。
“痣”は命の前借り。発現した人は25歳までに命を落としてしまうということ。

「前々からタケの事、不死川から話は聞いてたぜ。何で不死川が蝶屋敷で治療受けずにタケの家で過ごしてたか知ってるか?」
「いいえ…わかりません」
「タケのことをずっと好きだったんだよ、不死川は。だから怪我をして休養を取れと言われた時、お前の家に行ったんだ。お前と一緒に過ごしたくてな。」
「え…」

「俺らはいつ死んでしまうかわからねぇ。だからこそタケと一緒にいたかったんだと思う。
 
そして、最終決戦で“痣者”になってしまった。生き残ったが25歳までには死んでしまう。タケに気持ちを伝えて恋仲に、ましては夫婦になったとしても不死川はタケを置いて先に逝ってしまう。」

だから、実弥さんは、ああ言ったんだ。
【俺以外のヤツと幸せになれ】

私が何も知らなかったから。一方的に伝えて断られて失恋に浸ってたんだ。
実弥さんは、私のことを、考えて言ってたんだ。

「…宇髄さん…実弥さんどこにいるかご存知ですか…?」
「あいつがタケを連れて行くってよ。」
「カアァ!!サネミノトコロ!!ツイテコイ!!!」

爽籟くんが先導し、その後を走って追いかける。息が切れる。苦しい。けど進む足を止められない。

そして着いたところは同じ町でも私の家から正反対のところにある竹林に囲まれたお屋敷だった。

「カアァ!!コッチダ!!」

玄関は施錠されており、勝手口から入る。
速度がゆっくりになった爽籟くんの後を歩く。庭にまわると縁側に腰掛けて月を眺めてる実弥さんが、いた。

「サネミィ!!」
「おォ、爽籟。どうしたァ?」
「オキャク!ツレテキタ!」

実弥さんと、目が合う。

「なんでタケがここに居るんだァ?」
「爽籟くんに…連れてきてもらいました。そして、宇髄さんから…すべて聞きました」
「チッ…宇髄のヤロウ…余計なことしやがってェ」
「実弥さん。やっぱり私は実弥さんが好きです。他の人なんて考えられない。実弥さんとずっと一緒にいたいです」
「タケ…宇髄から聞かなかったのか?俺は25歳までに死んじまうんだ。


俺は、1人タケを残して逝くことが耐えられねェんだよ…」


俯いてそう呟いた実弥さんに近づき、抱きしめた。
実弥さんは自分が死んだ後の私のことを考えているんだ。


「死んだ後のことなんて考えないでください…私は、何も知らないまま実弥さんと一生離れ離れになることの方が耐えられません。
実弥さん…私を、お側においてくれませんか?」

「本当に、俺で、いいのか?」
「もちろんです。実弥さんが、いいんです。私と、夫婦に、なってくれますか?」


「あァ。俺と、夫婦に、なってくれ」




ーーーーーーーー


あの後トントン拍子にと祝言を挙げ、子を成すことができた。お産の時には面白いくらいに動揺し、生まれた子を見て泣いていた実弥さん。その姿を見れて嬉しかった。


それから月日は流れた。


実弥さんが我が子を膝の上に乗せ、縁側から外を眺めている。2歳になった子は風車を吹いて遊んでいる。洗濯物を干しながらその様子を見ていて「この時が永遠に続けばいいのに」とポソッと1人で呟いた。

あと数日で実弥さんが25歳を迎える。
24歳になってからカクンと体力が落ちた様子だ。縁側に座ってる後ろ姿が小さく感じる。
そして最近は食が細くなってきている。


"その日"が確実に近づいてきている。


「タケ。ちょっとこっちに来てくれねェか?」

台所で食器を洗ってた時に声をかけられ、実弥さんの隣に座る。

「はい。どうかされました?」
「俺は幸せだなァと思ってよ…親兄弟は早くに死んじまったが、タケとこのチビ。大切な家族が出来た…」
「ええ。そうですね」
「今俺の膝の上で寝ているチビが元気に成長する姿をずっと見守ることは出来ねェのが残念だな…」
「この子も実弥さんと過ごした日々はきっと忘れられない宝物ですよ。」
「ハハッ。そうだといいんだけどなァ。」

そして実弥さんが私の頭を撫でながら呟いた。

「タケ。俺と夫婦になってくれてありがとう…俺は幸せだった…タケ…愛してる…」



実弥さんの膝の上でスヤスヤと寝ている子どもが握っていた風車が、風が吹いてないのにカラカラと回った。




その日がいつになろうとも


「実弥さん、ありがとう。愛してます」









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