「おい。聞こえてんのか?死んだか?おーい」

真っ赤な地獄に降り立ったのは、キラキラ光る、大きい人。






「タケ。起きたか?まきを達が飯準備してるから早く食ってこい。」
「お、おはようございます。たべてきます。」


2ヶ月前の夜。結婚してすぐのことだった。
目の前で私を鬼から庇った夫が喰われた。私も殺られると覚悟した時、助けてくれたのが鬼殺隊という部隊の天元さま。
そして居場所のなくなった私を居候させてもらっている状態だ。

「あ、タケさん。おはようございます。」
「タケちゃん!おっはよーーん!!」
「須磨うるさい!!」
「わーーーん!まきをさんがぶったぁ!!天元さま、みましたあ?!今ぶたれたの!」
「みてないわ」
「ぼんくら!!!!」

雛鶴さまがご飯を茶碗によそってくれる。

「雛鶴さま、ありがとうございます…すみません…」
「いいえ、いいんですよ。それよりも…」
「??」
「いえ、なんでもありません。どうぞ、たくさん食べてください」
「いただきます」

賑やかな日常。
御膳に美味しそうな食事がならぶ。

それを口に運びながら考える。

夫が殺されて2ヶ月。宇髄家に保護されて2ヶ月。
最初は食欲なんかなかったし、何も喉を通らなかった。早く死んでしまって先に逝った夫の元に行きたかった。

一度自分から命を絶とうと夜に屋敷を抜け出し、山の中で着物の帯紐を木の枝にかけ、首を吊ろうとした。
だけど掛けた枝が細すぎたのか折れてしまい、失敗に終わった。

「派手に現実を教えてやる。タケ。テメーは今死ぬようなやつじゃねえよ。」

「「生きろ。」」

後をつけてきていたのであろう天元さまに言われたその言葉が、鬼に喰われる前に夫が言った最期の言葉と重なった。夫を想い、夫が死んでから初めて大声で泣きじゃくった。
そして私は夫の言葉通り、もう少し長生きしなければならないとおもった。

それからというもの、天元さまをはじめ3人の奥方達が必ず一人は私のそばにいてくれた。私も甘えてばかりでいられないから家事の手伝いをしながら宇髄家でお世話になっていた。

「ごちそうさまでした。あ、あの…皆さんにご相談なのですが…」
「ん?なんだ言ってみろ。」
「私がここでお世話になって2ヶ月経ちます。その、いつまでも此処に居座り続けるのも皆様に申し訳ないので、そろそろ出ていこうと考えています。もちろん、これから働いて今までお世話になった分の食費やらはお渡しさせていただきますので…」

三つ指をついて頭を下げる。
彼らには感謝してもしきれないほどの恩ができた。それを少しずつ返していかねば。

「ダメだ。この家から出るのを許可することは派手にできねえな。」
「私もタケちゃんがいなくなるのすごく寂しいですうー!」
「で、ですがずっとこのままって訳にはいかないんです…夫の墓も作らないといけない、家も掃除しないといけない…皆さまが良くしてくださるのが申し訳ないんです…」

涙が溢れ、畳に落ちる。

「タケ。俺様についてきな。」
「えっ…ちょっと…うわっ!!」

着いてきなと言われながら天元さまに俵担ぎされ、外に出る。

「て、てんげんさま、早い、はやすぎです」
「だってタケ走るの遅えんだもん。俺が担いで走った方が早い」

生まれて15年、体験したことのない速さで駆け抜ける天元さまに振り落とされないよう必死にしがみつく。そして到着した先は

「ここって…」

夫と2人、暮らしていた、家。

「此処に来たかったんだろ。中、入れよ。」

震える手を引き戸にかけ、中に入る。

「俺が鬼を倒した後、お館様の意向で隠の奴らができる限り綺麗にしたんだ。まあ、元のままって訳にはいかねぇが…」

畳や襖など、新しいものに変えられていた。

だけど

「やっぱり、血の匂いは、残ってるんですね…」
「こればかりはな…鬼が此処に来る前にかなりの人間を喰ってたし」
「そうですか…」
「心ゆくまで見回ってこいよ。」

天元さまに促されるがままに家の中、庭、と順番に見て回る。そして裏に回ったところで足が止まった。そこには小さい墓石が建っていた。

「これって…」
「ああ。タケの旦那の墓だ。まあ、喰われちまったから何も埋まってないがな」
「そうですか。ありがとうございます…」

お墓に手を合わせ、祈る。

「天元さま、ここに連れてきていただきありがとうございます。親は早く死にました。夫とはお見合いで、15になった日にお互いに好意を抱いてるかどうかもわからず結婚しました。」
「まあ、今の時代そういうことも珍しくねぇな」
「だからと言うのはおかしいですが、夫が私を庇ってくれたという事が嬉しかったんです…」

また涙が溢れてくる。

「旦那が守ってくれて生きのびたんだ。死のうと思うな。幸せになるんだ。」頭を撫でながらそう言う天元さまの優しさに、少しだけ、甘えたくなった。

「タケ、今のうちに思いきり泣いちまえ!嫁達…とくに雛鶴がタケを心配している」
「ひ、雛鶴さまが…」
「眠れてないんじゃねぇかって。まあ、目の下のクマが酷いからな」

そうだったのか。だからいつも雛鶴さんが何か言いたそうにしていたのか。

「なあ、タケ…ウチの子にならねえか?」
「……え…?」
「派手に突然何言ってんだって感じだろうが、この事は少し前から考えててな。タケは親も早く亡くなって1人の時が長かっただろ?」
「そうですけど…」

突然天元さまは何言い出すのだろう。
血の匂いを嗅ぎすぎて頭がおかしくなったのだろうか。

「鬼殺に身を置く俺はいつどうなるか分からない立場だ。それは嫁達も一緒だ。だがこの2ヶ月、タケと生活をして、堅気の人間であるタケを見て、タケが俺たちの帰る場所になってくれたら嬉しいと思ったんだ。」
「そんな…」
「それにタケはまだ15歳。これから先の未来は無限大だ。その未来を俺らに見せてくれないか?」
「天元さま…」
「返事は派手に「お願いします」か「はい」しか受け付けねーけど…」

こんなに私のことを考えてくれてる人たちがいたんだと思うと嬉しくてたまらなかった。
宇髄家の皆さんと家族になることを考えてみたら心が暖かくなってきた。お返事、しないと。

「天元さま、そのようなお話、ありがとうございます…皆様が良ければ…よろしくお願いします」

頭を下げると、さっきよりも強く、けど優しく頭を撫でられた。

「てんげん、さま、頭はやめてくださいぃ」
「天元さま、じゃねえ。今から父上か親父か天元と呼べ!」
「えええ…ち…父上…」
「おう。」

パッと天元さまの様子を見ると、少し照れたような顔をしていた。

「天元さまずるいですー!私もタケちゃんをなでなでして甘やかしたいです!」
「こ、こら須磨!申し訳ございません天元さま…こっそり跡をつけてきてしまって…」

茂みから飛び出してきたのは天元さまの3人の奥方。

「タケさん。これからは私たちの娘として、私たちと一緒に暮らしましょう」

雛鶴さんが私の手を握りしめ、
まきをさんが私を見守り、
須磨さんが私を強く抱きしめた。

「ここに帰ってきたければ、俺様がまた連れてきてやるよ。だから、帰ろう。俺らの家へ」



帰ろう


「よし!タケ!!これからは思う存分父と母達に甘えていいからな!」

えええ、甘えるってどうすればいいんだろうと思った幸せな日の始まり








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