「それなら不死川と過ごせばいいだろう。」
そう言い放った先の彼女はとても傷ついた顔をしていた。


「もう、知らない」


はっと、気づいた時にはもう遅い。泣き出しそうな顔。
勢いよく飛び出していった彼女。追いかけようにも体が動かない。
大人げなく、言ってしまった言葉に後悔するしかない。




さかのぼること数時間前。



「実弥さんがね、コツを教えてくれたの」

彼女はまだ大学生で弓道サークルに入っている。
俺は剣道部だったんだが、交流会で彼女を知り付き合うことになった。

同じ弓道をしている不死川が珍しくゴリ推ししていた。

(タケはいいやつだぜェ)
彼女からの猛アタックだった。

弓道のことはよくわからないが、的を射る凛とした横顔が好きだ。
学生最後の大会にタケは一生懸命練習していた。

練習相手にされてたのが不死川だ。
彼の集中力はすさまじく、成績もいい。
たくさんの部員を指導していた。
もちろん後輩にも慕われていた。男女問わずにだ。

「煉獄さんだってそうでしょ!みんなから慕われてるし!」

そう振り向いて笑う彼女は見ていて飽きない。
笑ったり、怒ったり、悲しんだり。純粋にうらやましい。


「ごめんなさい!練習があって…」
「うむ!また日を改めよう」
ごめんなさいっ!と深々と謝る彼女に少し複雑だった。


大会に近づくにつれて会う時間も減る。仕方のないことだ。終われば会える。
俺も仕事がある、会えない日だってある。
しょうがない。けど何故か複雑だ。

「実弥さんがね、、、」
「あの時は実弥さんが…!」

実弥、実弥、

最近のタケは不死川のことばかり。
無理もない、一緒に練習しているのだから。不死川も仕事の合間に時間を作っている。

「いいのかァ?」
「不死川がいいのなら構わない!悔いのないよう、指導してほしい!」

不死川なら別にどうってことない。知り合いだから、と思っていたがこの気持ちは


「嫉妬…か。」




我ながら驚く。家族以外、人に執着したことがない俺が。
そこまでタケを…
いつのまにか夢中なっていたのは俺の方だった。
そう思ったら追いかけるしかない!と勢いよくドア開けた。

「「っ!!」」
「いったぁ…!遅い!!」

なんと彼女は外で待っていた。

「すまない、タケが不死川と何度もいうから嫉妬した。」

そう謝ると驚いた表情。
じーっとこっちを見ている。


「私もごめんなさい、勝てば煉獄さんが喜んでくれると思って。」


しょぼくれる彼女をぎゅっと抱きしめた。


「煉獄さんも、私のこと、気にしてくれてるんですね」
「当たり前だ!いつも君のことを想っている。」
少し離して顔をコツンとあわせた。
お互いの吐息が重なる。照れ臭い。


「私だけが好きだと思ってました。すみません、ちょっと嬉しかったです」

小柄な彼女がくすくすと笑う。

「そんなことはない。タケが愛おしくて仕方がない」

へへ、と照れた顔にほっとする。許してくれただろうか。

「今日は家でゆっくりしましょう?」
「練習はいいのか?」
「今日は煉獄さんとゆっくりしたいです。実弥さんには断っとこう!」
夕方から練習をお願いしていたらしい。

「杏寿郎だ。」
「へ?」
「不死川は名前で呼んでいるが俺はいつ呼んでもらえるだろうか?」

彼女は俺の胸のなかで小さく 杏寿郎さん、と微笑んだ。



心底憎いといった表情で

(あんまり可愛い顔をされると困る)



End










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