「タケ〜俺んとここない?可愛いのにさ〜。あんなヨボヨボのじいさんに付くなんて。俺といたほうが楽しいよ?それに、相性もいい。」



「童磨様…その話は何度も断ったでしょう?無惨様に叱られます…」


「ま、いつでも待ってるから……おやおや君の主人がお怒りかな?とっとと逃げよ。じゃ、またね。」


ひゅるりと姿を消す童磨様。
いつも勧誘される…?
雨の血鬼術を使う私と氷を扱う童磨様とは戦いの相性がよく、会うたびに組まないかと言われる。

それでも半天狗様といる理由。


「また童磨殿に勧誘されてたな?」

「なんじゃこの髪は。初めて見る結い方だな。戦いに必要か?」

「空喜様、可楽様…よろしくお願いします。いった…」

「引きちぎってやろう。お前の歪む顔は最高じゃのう。」

自慢の長い髪を緩く結って横で結んでいる。だって今夜は久しぶりにお会いできるかもしれないと思っていたから。
なのにすぐ可楽様に切られてしまった。
いつもそうだ。
服とか、見た目が似合わないとか言って。からかって破かれたりする。

やめて、と言いたいけど怖すぎて言えない…。


「大丈夫か?あぁ、痛々しい…」

「哀絶様、お久し振りです。わわっ」

ぐっと髪の毛を引っ張られる。そこには積怒様が。

「チィッ…ったく。お前、好き勝手されすぎだぞ。少しは反論するがよい。行くぞ。夜が明ける。」

そういって荒々しく切れた髪の毛をひとつに縛ってくれた。

「はい…!」






雨夜の月 

 




無惨様からの命令で目的地へと進む。

いつもは半天狗のおじいちゃんのお供をしているけど今回は違うみたい。

珍しい、最初から4人分裂しているの。敵は柱だろうか…?

私は雨の血鬼術を使えるため、よく半天狗様の指令にお供する。
というのも雷を司る積怒様との相性が良いらしい。

確かにそうだ。
雨を降らせ、雷を落とせば人間なんぞ簡単だ。
焦げてしまった人間を喰うのもこりゃ一興、とばかりに積怒様たちは人間を料理していくように殺していく。


私はなるべく積怒様達の迷惑にならないようにと後方支援に専念する。



「あの…!」

「なんだ、移動中に話しかけるな。」

「…すみません…」


移動途中で今回の命令について聞こうにもなかなか聞けない…。


「…チッ、煩わしい。お前は儂に合わせておけばよい。」

振り向いて足を進めるが積怒様は早い、早すぎる。
己の体力のなさに少し残念だ。


「なんだ、もうへこたれたか?」

「…いえ!いや…あの、はい。」

「お前…最近喰ってないな?」


いきなりギュイっと止まって身体中を嗅がれる。
それは隅々まで。

近い、近いです積怒様…!


「ひ、久々の命令に緊張して寝れず…食欲もなく…すみません…」

「馬鹿かお前は。」

ハァとため息をつかれ舌打ちまできた。これはもういつもの事だ。




「お前無しでも儂は充分強い。着いたら後ろで休んで見ておけ。」

「え?」

急にそんなこと言うもんだから驚いて足が止まった。
と同時に横からザザァと1人飛んでくる。


「あ、積怒ったらまたこいつに甘い事いっておる」

「うるさい。可楽こそおらぬとも儂1人で充分だ。足手まといといっているだけであろう。」


プリプリと怒っている積怒様。
でも実際は他の3人よりも優しくて気にかけてくれている。

そんな積怒様に救われている。
いつも怒っているけど。



「…私、頑張りますから。頑張って強くなりますから…」

強くなる。
強くなって迷惑をかけないようにしたい。
積怒様の足を引っ張りたくない。
充分に指令をこなして、積怒様の役に立ちたい。


強くなって…


「…フン…。勝手に言ってるがよい。」


積怒様…あなたの側にいても恥ずかしくないように。








「カカカッ!喜ばしいのう!柱が2人もいるとは!」


目的地に到着すると、そこに居たのは今までとは桁違いの強さを感じる人間が2人いた。

初めて見る柱に冷や汗が出る…これが、柱…私一人じゃ到底敵わないのが直感でわかる。



「タケ。儂らの援護を頼む」
「承知しました」


積怒様の一言を受け、少し離れたところで血鬼術を発動させ、柱と闘う四鬼の援護を行う。


土砂降りの雨が柱達を襲う。



「雨が降って動きが鈍ったのう!」
「可楽。時間の無駄だ。あまり儂を苛々させるな」
「分かっておる。そろそろやるか」


積怒様と可楽様が柱の1人を手にかけようとするところを見ていた私の視界が反転した。


「え???」


ドシャッと落ちる頭。
一瞬で現状を把握し、その場から飛び退く。
首切られたの?いや、首を切られたなら私の意識はないはずだ。切られたのは鼻から、上。

少しずつ再生されていく顔で私がいた場所を見る。そこにいたのはまた別の、人間。


「タケ!!!!!!」


遠くで積怒様の声が聞こえる。
大丈夫。この人間はあの方達が戦ってる柱ほど強くなさそうだ。だって私の首を切れなかったんだから。


己の血鬼術の範囲を広げ、一帯が土砂降りになる。

「哀しいのう。鬼のくせに気配に気づかずすぐにやられてしまうとは。嘆かわしい」
「おい、タケ。こっちの柱は全て始末した。早くそいつを仕留めろ。見ていて腹立たしい」


雨で視界が真っ白になる。
この中でちゃんと見えてるのは鬼の私たちだけ。
それをいいことに人間に向かって踏み込み、伸びた爪で切り裂こうとした。
だがその腕を掴まれ、向こうの刃が頸を目がけて先に振りかぶってきた時、今までの出来事が頭の中に流れてきた。


可楽様や空喜様、哀絶様にお気に入りの着物を破られた時、髪の毛を千切られた時、腕を折られた時もあった。


でも、積怒様は。
積怒様は私に怒ることはあっても傷つけるようなことはしなかった。


半天狗様のお供になって数百年。
さようなら。
積怒様に、ちゃんとありがとう、お慕いしてたって、言えなかったな…




「血鬼術 蔓蓮華」




私の雨が一瞬で凍り、蓮の華と葉が広がる。

広がった葉が私の腕を掴んでいた人間の胸を貫いた。


「積怒殿、女の子を危険な目に合わせちゃダメだぜ」
「ど、童磨様…助けてくださりありがとうございます」

「やっぱ俺んとこ来いよ。こんな危険な目にも遭わせないし、嫌がらせもない。不自由ない生活を保証するぜ」と言い私の肩をさりげなく己の方に寄せる童磨様。


「童磨ぁ!儂のタケに手を出すな!タケ!儂の方にくるんだ!」
「積怒様…?」
「積怒殿、選ぶのはタケだ。タケ、お前はどっちを選ぶ?」


どっち…?

そんなの決まってる…


「童磨様、申し訳ありません。私は積怒様の側にいたいです」
「うーーーん。そうなんだ。茨の道を行くんだね?」
「私にとっては普通の道です。助けていただきありがとうございました」


童磨様に一礼し、積怒様の方に向かう。


そして積怒様にも一礼。


「私は積怒様をお慕いしているみたいです。なので…私をお側に置いていただけませんか?」

私の幸せは積怒様のおそばにいることです。

「…タケ。いつまでも頭を下げるな。苛々する。顔を上げろ」
「…はい…」
「一度しか言わない。よく聞け」
「はい…」
「さっきタケの頸が切られたかと思って腹立たしく感じた。死なれるのは困るんだ。他の誰かと一緒になるのをみるのも苛々する。だからこれからも儂等と共に歩んでいくぞ」
「……!!!はい!!!!」
「他の奴らにタケ に余計なことをするなとキツく言い聞かせておく」
「ありがとう、ございます」


その言葉が嬉しくて涙が溢れた。
それに気づいた積怒様は苛々して舌打ちをしながらも私を優しく抱きしめてくれた。




「なんだ。俺の入り込む余地全くないんじゃん。つまんねーの」と1人呟いて、童磨様はその場から消え去った。





end








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