「タケの血鬼術は儂のものと通じるものがある故見ているだけでも楽しいのう!」

「ひぇっ…!可楽さ、ま…お久しゅうございます…なぜ、こちらに…?」

鎌鼬。
これが私の技。一振で目の前の物を切り裂いていく。
ヒュっと顔をかする風が好きで、この血鬼術はとても気にいっている。

もっと、もっと。
強くなりたい。
強くなってあのお方の…




私が無限城の一室で己の術の精度を上げようと鍛錬していた時だった。





「無惨様に呼び出されたのじゃ…」と笑いながら答えてくださる可楽様。気づかなかった。
ビュン、ビュンと風を裂く音で。


「鍛練も良いが、後ろにいた儂に気づかぬとは。この先少々危なっかしいのう…。」

そう笑いながら近づいてくる可楽様にポンポンと頭を撫でられ、肩が跳ねる。


そして続々と上弦の肆の方々が部屋に入ってこられた。

「腹立たしいほど無駄な動きが多すぎる。薙刀から出される鎌鼬に己も巻き込まれるぞ。そんなくだらないことで苛々させるな」と指南してくださる積怒様。


「積怒との術との相性より儂の術の方がタケとの相性が良いからのう。その動きでいいのじゃ。」

「か、可楽様…ありがとうございます…」

「これからも鍛錬に励むのだぞ」


上弦の肆の方々…特に可楽様は何かある度に私にお声かけしてくださる。
下弦にも及ばない、しかも緊張しすぎてうまく話せない私になぜ…?と思ってしまう。


「してタケ。今から暇か?」
「い、今からですか?………特に予定、はありませんが…」
「ならば儂等に着いてこい。無惨様よりお主を連れ立っても良いと許可をいただいた」
「は、はい。承知しました」 



夜の闇を駆け抜けて、木と木の間を抜けていく。
どこにいくのだろう。
その一言が聞けず、着いていこうにも早すぎる。

待ってください…なんて言えない。でも息が上がってきた。

まだまだ鍛練が足りないな…




「わ、わ、!」


一生懸命着いていこうとするも、足がもつれて体制を崩した。
バキッと細い木の枝が折れてそのまままっ逆さまに落ちる。
はたと下をみると木々で生い茂っているから怪我といっても腕の1本や2本だろう。


地に打ち付けられる、と目をつぶると痛みのあるはずなのに、ない。


「タケ…お主…諦めたな?」
「可楽様…!も、申し訳ありません!助けていただくなど…!」


ふわりと地面すれすれで抱き抱えられる。視線の先は可楽様と闇夜を照らす月が煌々としている。

「は、早くおろしてくださいませ!」

「嫌じゃ」

「重たいですよ、私!」

「そんなことはない。軽くて儂の一捻りで足1本容易く折れそうだ。」

やってみるか?とニカッと笑う可楽様に少し胸が高鳴る。

「それを望むのならば…」

「冗談じゃ、お主をみてると何故かからかいたくなる。」

可楽様に抱き抱えられるその数分が私にとっては長い長い時間に感じた。だって心臓がズキズキする。


「何故だかわかるか?」


ストン、と降ろしてもらう。


「いえ…」


「まぁ良い。気づくまでお主で遊ばせてもらう。それはそうとタケ。お前何故諦めた?あのままでは体の1部が折れていた。」


鬼に…なってから怪我だとか、そういう物に対しての防衛は薄くなっていた。
いずれ再生する、この体。
といってもまだ下っぱの私は再生に時間はかかるだろう。

「折れても…再生しますので…」

「鬼とはそういうものだしの…だが儂はお主に傷ついて欲しくない。見たくない。だから今後そんなことをすれば…」


ズズッと近づかれ顔を鷲掴みされる。顔が近い…!


「す、すれば…?」


「罰として接吻してもらおう。」


「へ…!?!?」


「これからも儂を存分に楽しませてくれるな?さて。そろそろ行くぞ?いつ接吻してくれるかのぅ…」


楽しみじゃ。
そう耳元で言われ、ぐしゃぐしゃに顔をいじられた。



呆然として可楽様を見ると、とびきりの笑顔でニカッと笑った。
それを見るたびに大きくなる胸のズキズキ。


「え、あ……あう……」


これって【傷ついて】ズキズキっていうか…苦しい……キュンっていうか………

一気に顔へ血が集まってくる。
え、これって、もしかして…



「タケどうした?顔が赤いぞ?」
「あの、わ、私の思い違いであれば申し訳、ありません…」
「何がだ?」


「可楽さま、は、私のことを…す、好いてお……」

「好いておられるんですか?」と聞きたかったのにそれを可楽様の唇よって止められた。


「やっと気づきおったか。遅い。遅すぎる。積怒ではないが流石の儂でも苛つくところであった」

「儂はタケを好いておる。タケも、もちろんそうだろう?」と言い、再度接吻される。
そして止まらない胸のズキズキ。



「わ、私も、可楽様のこと…お、お慕いしております…」

顔が赤いのが収まらない。可楽様の顔を直接見れず、俯いて自分の気持ちを口にする。


「カカカッ!!そうかそうか!!タケも儂のことを好いておるか!」
「は、はいぃ…」


この高揚した気分のまま人間のいる里に降り、可楽様と2人で何人もの人間を殺し、喰った。
積怒様たちも己の欲のままに喰っていた。




「ずっと儂の側におるが良い。永久に楽しく幸せに過ごさせてやろう」
喰い終わった後、可楽様の膝の上に乗せられ、耳元で囁かれる。


私はもう、可楽様から逃れられない。





好楽








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