「あー寝坊しました!」
ガバっと起き上がる彼女を横に、つい笑いがこみ上げる。
「もしかして起きてました?起こしてくださいよ!」
「寝顔が可愛くてな、つい」
すると枕を投げつけてきた。
「もー!今日はお弁当もってお花見って言ったじゃないですかー!」
急いでベッドからでてくる彼女をゆっくりと追いかけた。





「はい、コーヒーどうぞ」


コツ、とテーブルに置かれた二つのマグカップ。

「私は急いで朝ごはんしますから!簡単でいいですか?」
「かまわん!昼を楽しみにしているのでな!」


今日のお出かけ用の弁当を張り切っていたタケは昨日夜な夜な仕込みをしていた。
手伝いをかってでると、「いいの!秘密なんです!」
そういってキッチンに入らない用に通せんぼしていた。可愛い。

シュシュとケトルの湯が沸いた。コーヒーの追加分だろう。

手に持っているじゃが芋と人参。先日実家から送られてきたものだろう。
軽く土を落としている。

「ひゃー!」
「む?どうした!」
「む、虫が!」

新鮮野菜の証である青虫がこんにちはしていた。キャベツについていたらしい。
咄嗟に俺の後ろに隠れる。ああ、距離が近い。

「とれたぞ」
「わあぁ、すごい!杏寿郎さんありがとうございます!」

ぱああ、と顔が明るくなる。本当に表情豊かだ。
タケがそれだけで喜んでくれるなら虫よ、何度でも来い。

「その子、ここにもらえますか?」
おずおずとキャベツの芯を差し出した。ゆっくり乗せてあげるとそろりそろりとベランダに連れて行った。

「ここなら安心だよ〜」

家庭菜園をしているプランターの上に置いてやっていた。

「また、収穫の時についていたらどうるすんだ」
「その時はまた杏寿郎さんがとってくれるでしょ?」


いそげ、いそげ、とつぶやきながら手際よく野菜を切っていく。
指を切らないか、心配だ。念のため絆創膏を握っておこう。
湯だった鍋に順序よくいれていく。ぐつぐつといい香りがしてきた。


「杏寿郎さん卵何個にしますか?」
「2つお願いする!」
「了解です!」
ビシッとポーズを決めてフライパンをだし、油を敷く。
ジュージューと音がしてきた。


水をコップに少しいれて流しいれる。

「それはなんだ?」
「蒸し焼きするんですよ〜!あ!半熟がよかったですか?」
「タケと同じでいい」
「じゃあ固めで!」



昨日一緒にいったパン屋で買った食パンを厚切りにしてくれる。


「杏寿郎さん。」
「む?」
「ゆっくりしていていいですよ?もうすぐできますから」
「ん」


俺は君にとても興味深くて。
ひとつひとつの動作や表情が可愛くて、愛おしくて仕方がない。


俺好みの厚さに切ってくれている。
さすがだ。
最後にトースターにパンをいれたらほら、出来上がり。


ミネストローネ、目玉焼き、トースト。
そして目の前にはタケ。最上級の幸せとともに。

「コーヒー淹れなおしましょうか?」
「いや、これでいい。」
「怪我しませんでした!」
「うむ!心配して握っていた」
「見えてましたよ、絆創膏を掴んだの」



他愛もない会話と愛しい君とともに。




冷めたコーヒーをすすりながら




ずっと君を見ていたかったんだよ。



End








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