「芋パン先生!?」
は、と気づいた時にはもう遅い。心の中で呼んでいる呼び名が出てしまった。
息の荒い先生はポケットからハンカチを出して汗を拭っている。
ラブストーリーは突然に 2
「君、さっき竈門ベーカリーから出て行っただろう。ちょうど向かってたから見えていた。」
「寄りましたけど…」
「芋パンを…俺のためにとっておいてくれたのだろう?ひとつ残っていた。竈門が教えてくれてな、買うか悩んでいたんだろう。君も好きだろうに」
しゅんと、眉毛が垂れた。
困ったように笑っている。
手にはまたたくさんのパンを下げたビニール袋を持っている。
もちろんその芋パンもチラリ。
「来られるかな?と思ったら…。この前のラスト一個は私が買ってしまったんです!だから気になって…」
「すまない。その気持ちが嬉しいぞ!ありがとう。代わりと言ってはなんだが…」
手に渡されたのは2つの飴玉。
「こんなものしか持ってなくてな!」
「ありがとうございます…」
ぎゅっと飴を見つめた。可愛らしいイチゴミルク味だ。
「ふふふ、こんなに甘いものも食べられるんですね」
「む?男が変か?!」
「いえ!可愛らしくてつい…」
「嫌いではないか?」
「好きです。甘いもの。芋パンだって結構甘いですよね!」
「そうだな…疲れた時は欲しくなるものだ」
自然と歩き出したその先は我が家の方向なんだけど。
話が切り上げられずに、歩き続けてみる。
「あの、お帰りは?」
「暗くなってきているから、近くまで送りたい。迷惑じゃなければ、だが。」
「…迷惑じゃない…です。じゃあそこまで」
にこーーーっと笑う芋パン先生はとても眩しい。
歩きながら少し話をした。
どうやらキメツ学園の先生らしい。歴史担当。
「ところでさっきの芋パン先生、とは?」
「へ!」
そうだった!
さっきその名で呼んでしまったんだった。
「名前がわからなくて、でも何度かパン屋で会うから勝手にあだ名で呼んでいました…」
きょとんとした顔でこちらを見ている。
ネーミングセンスのかけらもない…とでも思っているのかな
「ははは!俺は煉獄杏寿郎だ。君の名前を聞いてもいいだろうか?」
「マツタケです、」
「タケさん。これからもよろしく頼む!」
何をよろしく頼むの?疑問に思いながらも勢いに圧倒されて頷いた。
この人、煉獄さんは豪快で時にふわっと優しくなる。
それがとても心地がいい。
「じゃあ、ここで」
あっという間に家の近くに着いた。
「うむ!今度から俺に遠慮せず買うように。な?」
「ふふふ、競争ですね!」
「そういわれると競いたくなる!」
そういってパンの袋をゆっさゆっさして帰って行った。
足早い!
オートロックの鍵をカバンの中から出して開けようとすると、足もとにジャリ、という音がした。
見てみると、鍵が落ちている。
「ん?社会科室…」
これって、、、煉獄先生の鍵じゃ?
しかも社会科室って、、学校のだよね…?
明日開けられなかったら困るだろう…
私を送ってくれたから。
どうしよう。
End
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