長男長女同士



不死川先生のブカブカのTシャツと短パンを着て車内で座る。
サイドミラーを見ると素っぴんに髪の毛はちょっとボサボサ。
足元はパンプスという格好だ。

確かにこんなんで電車に乗れるわけない。



送ってくださるのは何度目かなんだけど。


冷房の風にふと香る先生の匂い、というか柔軟剤の匂いが心地よくて。


眠くなりそう








たとえば君が







「…わざわざありがとうございます」




「別に、コンビニに行くついでだァ」




不死川先生は多分、面倒見が良い。
なんだかんだで一番助けてもらってる。



私の少しの変化にも気づくし…
でも関わりかたはちょっとぶっきらぼうだけど。





「お前…なんか悩みでもあんのかァ…?」




「へ?どうしてですか?」



音楽も何も流れてない車内で二人の声が響く。





「……泣いてた」




そうなの?!眠ってるときかな?

そういえば最近枕元が濡れてることが多かった。嫌な夢でもみてたかなと思ってたけど。





「自分で思ってるより…なんか辛いんじゃねェか?」







赤信号でこっちを見てくる先生に、一瞬言葉が止まる。




思えば新任で勤務してから毎日毎日駆け抜けて。
慣れない仕事
頼れない職業
そして人に甘えられない性格


1人でなんとかしようしようと、残業も多かったしなぁ…。




以外と体は悲鳴を上げてたのかな…







「……不死川先生って鋭いですよね。もしかしたら頑張りすぎてたのかもしれません。」





「他のやつにもっと頼ればいいだろォ…」





頼ればいい、の言葉はとても衝撃的で。

自分でどうにかしなきゃ、しなきゃ、と思いすぎていた。


でも自分の事。
人に迷惑はかけたくない。



「ありがとうございます。優しいですね…でも迷惑かけたくないんです。私が早く慣れたらいいんですけど」






「……帰りが遅いのは心配だ。年頃だしよォ…」





年頃?まさか!



「まァ、なんだ。手伝えることは言えよ。あんま気負いし過ぎんな」




優しくて
優しくて涙がでそう。



そういえば赴任してからこんなに気にかけもらったの久しぶりだ。







「ありがとうございます…!心強いです。私、下に兄妹が2人いるんですけど、長女だからか頑張らなきゃ、自分でしなきゃっていつも思ってたかもしれません。」



しばらく間があいてくつくつと笑いだした。
何か変なこと言ったかな?







「奇遇だな。俺も長男だ。」




「…!そうなんですね!面倒見いいですもんね!」





「上ってのはァ大変な時もあるよな。」



それから帰りつくまでは互いの兄妹の話しになった。
どうやら次男が学校に通ってるらしい!
会ってみたいなぁ…

そんなこんなですぐ家に着いた。






「ありがとうございました!また、学校で」







「おー」






「あ、不死川先生も何か困ったことがあったら言ってくださいね!長男長女同士、助け合いです!」






「ほぉー。そりゃ頼もしい。期待してるぜ?」


あ、また子供扱いしてるな?






ムッとするとヒラヒラと手をふってゆっくり発車した。







運転が相変わらず丁寧で優しかったなぁ。







end








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