不死川先生の憂鬱
「しなせんおはよー」
「久しぶりー」
「おー、元気にしてたかァ…」
「相変わらず不機嫌だねーしなせん!」
「いつまでたっても彼女できないよー!」
「朝からうるせェ!ほらさっさ行った行った…」
朝からキャッキャ言ってきやがる女子たちを目で追いやる。
夏休みも後半。
まだ朝早いのにジリジリと照りつける日差しにため息がでる。
今日は出校日っつーことで冨岡と門の前で立つこと数分。
「わりーわりー!寝坊した」
校舎の方から宇随が歩いてきた。
額に青筋が入る。
朝の挨拶担当は宇随のはずだったのに冨岡が来ない来ないと慌てるもんだから仕方なく来てやったのに。
遅刻してきた割にはばっちりきめている宇随に腹が立った。
「宇随てめェ当番だったろうが!」
「わりーって言ってるじゃねーか。昨日夜遅かったんだよ、すぐ代わるから帰った帰った」
シッシと追いやろうとする態度に怒り心頭になりそうになりながらも胸ポケットにアイスコーヒーをいれてくれた。
「チッ」
「あ、しなせんが賄賂もらってる」
「ちげェ!!」
長い1日が始まる。
たとえば君が
「っつーことで夏休みが終わればお前たちは受験だ。その前に実力テストあるよなァ。気ィ引き締めろよ」
はーい、うげぇ、いやだーとかぼやいてるのをよそに話を進める。
俺のクラスは3年だから受験が控えている。
進学するやつもいれば就職したいやつもいて様々だ。
「保護者面談もあるからなープリント親に見せて始業式に提出。」
進路の話になると毎年鬼のように忙しい2学期。
勉強もだが体育祭に文化祭もある。
キリのいいタイミングでチャイムが鳴った。
終業の号令をしてすぐ解散だ。
(テスト問題作んねーとなァ…)
今日も帰れそうにない。
「しなせんサヨナラー」
「またねー」
ダラダラと帰っていく生徒を横目に教室のデスクに座る。
日誌を書いて今から職員会議だ。
「お前らも早く帰れ」
「だって!気になってるるんですよー!宇随先生とマツ先生のこと!!」
宇随とマツが…どうかしたのか?
目の前で盛り上がっている女子集団の声が嫌でも聞こえてくる。
「しなせんに言うのまずくない?」
「だってしなせんなら知ってるかもよ!あの2人ってもしかして付き合ってるのかどうか!」
「はァ…?お前ら何言って…」
「だって噂になってますよ!昨日の夜、町を宇随先生のバイクに2ケツしてた女性がマツ先生だったって!」
おいおいおい
「はァ…お前ら呑気だな。そんなん別にどーだっていいじゃねェか」
「よくないです!宇随先生って格好いいしモテるはずなのに女の気配しないし、それにマツ先生だって優しくて可愛くて話しやすいしおっぱい大きいし!」
キャー!と盛り上がる女子たちの横で男子らも混ざってきた。
「俺もさわりてー!」
そういう男子を1発コツンとしてやった。
おもしろくねェ。
確かにマツはいいやつだし胸も…
…って何考えてやがる
カブトムシが飛んだ日のことがフラッシュバックする。
「…くだらねェ。お前ら受験生なんだからな。さっさ帰って勉強しろ」
あーもう面倒くせェ
「えーお似合いなのにねー」
「何しなせん顔赤くなってんのー?」
「俺たちと同じでマツちゃんの想像してんじゃない?!」
「クソがァ…お前ら早く帰れ!」
ブチキレて生徒達をクツ箱まで追いかけてやった。
あいつと宇随が?
確かに保健室に宇随は入り浸ってたしなァ…
でも飲んで泊まったときはそんな感じじゃなかった。
その後のことか…?
いつもならこういう事は興味ねェって思ってたけど、ざわざわして落ち着かねェ。
知り合い2人だからか?
久しぶりに見るマツの顔を見て、宇随を見る。
そういや宇随は昨日遅くなって寝坊したっつってたよなァ…
まさかマツといたのか…?
ため息をつく。
コーヒーがまずい。
近くに座っているマツは話しかけてきたそうにしていたのに、テスト問題を作ってるからと忙しいふりをした。
買い物のことでも聞きたかったんだろうが…
俺はがらにもなく寄せ付けないオーラを発し、職員会議中はなかなか内容が頭に入ってこなかった。
end