調子狂う

目覚めはいつもより悪かった。
天気は良いのにまだ眠たい、そんな1日のスタート。


顔を洗いに洗面台へ行くと寝癖のついた俺が鏡に写る。



「ひでェツラだなァ」


我ながらそう思う。
髪の毛はまとまることはない。
いつも跳ねている


今日は例の約束をしていた日。





どうせすぐ終わると思って指定したのは昼過ぎ。
約束の時間までやけに落ち着かねェ…
朝飯を済ませ、残っていたテスト採点をしだすもすぐ集中が切れてしまう。



「買い物でも行っとくかァ…」


昼飯作んなきゃなんねェしな…



採点を途中でやめ、パーカーだけ羽織って近くのスーパーへと向かった。


ふぁ、と小さなあくびが空へと消えていった。





たとえば君が






作りすぎたなァ
1人分ってのがまた難しいんだよなァ…
車内で待ちながらさっき作りすぎた肉じゃがの行く先を悩んでいた。
煉獄にでも持っていくか。





コンコンと車の窓を軽く叩かれて我に返る。
チラリと窓を見るとマツがペコペコと頭を振っていた。



(こ、ん、に、ち、は、)





「…よォ」

「すみません待たせました!?」


「今着いたところだ。まァ…乗れば」




車の目の前を横切って助手席に座るマツを見てギョッとした。


「おじゃまします」


髪の毛をおろしているのは1度見たことがある。それに加えて今日はなんだか顔もちげェ…しスカートを履いている



発車しない無言の車内にマツがオロオロし始めた。



「…たまにはスカート履いてみました。変ですか?」


「………いいんじゃねェの?」



ックソ。
調子狂うな…
女の格好の事は全くわからない。


なんて言っていいかわかんねェ…

ふう、と一息ついてすぐエンジンをかける。



「生徒にばれないようにマスクも持参しました!不死川先生の分もどうぞ、」




赤信号の時にササッとマツに差し出されたマスクをもらう。
気が利ぃてんじゃねェかとみると



「動物マスクです、かわいくて買ってしまいました!これなら絶対誰も不死川先生ってわからないですよ!」



得意気にマツがつけたのは猫の髭と舌がちょっとぺろっとしてあるやつ。
俺のはライオンの口元がプリントアウトされている。




「ほら!勇気をだして!」


ガッツポーズするマツに思わず今日1発目の怒号が鳴り響いた。


「誰がつけるかァア!」










※※※※※





近くのショッピングモールは生徒がいること間違いなしだからと隣のショッピングモールまで来た。
休日とあってか人かなり多い。
家族連れやカップルまで様々。


「今日は何を買う予定なんですか?」

一階の地図をみながらくすくす笑ってるマツに多少イラつく。


「そんなに似合ってねェかよ」

「いや!そんなことは1度も!でも珍しくて…あ、写メとっていいですか?」

「ア゛?」

ゆらりと隣を見ると楽しそうなマツ
ちゃんと…年相応な顔すんじゃねェか。

こんなマスクつけてたまるかと思ったが生徒にバレるよりマシだ

宇随とこいつの噂の時だって凄かったしなァ…


ざわざわとするも別に知ったことじゃねェし。




「先生の買い出しってことは…分度器ですか?それともコンパス?」

勝手に学校用品の買い出しだと思っているようだが違う。



「…玄弥が、同じ部の3年になんかプレゼントしたいんだと。俺はそんなのはわからねェっつったんだけとよォ…あいつが困ってるからよ。」



「なるほど!可愛い弟のためにですね!さすがお兄さんです。」


「あ゛?そんなんじゃねー…」



困ってるのを見れば任せろと言いたくなる。
兄の性だろうか。
つくづく兄妹には甘い。


「…チッ…贈り物で手頃なのがわかんねェんだよ。なんかねェか?」


チラ、と横を見ると意外とある背の差に驚く。そういえば意識したことなかったな。
こいつ、普段は幼いんだな。



腕を組んでうーむと悩むこと数分。



「あのですね。多分ですけど一番は玄弥さんが選ぶのが喜ぶと思います。なので、今日はハンカチとか靴下とか、普段使うもの見てみましょう!それを伝えて玄弥さんとまた買いにきたらどうでしょう?」



確かにそうだ。
俺が選んだものをあげても貰った本人は玄弥が選んだと思うしなァ…
そこまで気にするやつにあげたいって事はつまりそういう事だろうから。



「…チッ…あいつ…恋愛とかは数学で満点とってからにしろォ…」



「年相応で可愛いです!上から見ていきましょう!」



買い物が久しぶりなのか
いつもより楽しそうでニコニコしているマツが新鮮で。





心なしか可愛い、と思ってしまった。





end








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