プレゼントフォーユー

マスク持ってきてよかったと思う。
だって目の前の不死川先生は普段の格好とは違って新鮮で。
いつも通りができない気がした。

学校で並ぶことなんてそうそうないんだけど。たまに廊下を歩くと身長差か目立っていた。

宇随先生とか煉獄先生も大きい。
煉獄先生は迫力的な大きさもあるかも。


ヒールを履いて少しでも背丈を稼ごう。
そう思って姿見の前で悩むこと数分。
合う私服が検討もつかない。
もうここは無難に歩きやすいパンプスとふわっとしたスカートにしてみた。

職場と家の行き来がほとんどだから着る機会を失っていたシンプルなフレアスカート。
不死川先生に失礼のない格好で、と謎の気合いを入れていってみたけど。


「いいんじゃねェの」


そうそっぽ向いて話す不死川先生が可愛らしくて嬉しくなってしまった。

せっかくの休みに人と出歩くこともないし。
今日は楽しもう…!





たとえば君が





「あとはこのお店まで見たら休憩しましょう!」

ついつい楽しすぎて上から下まで見てしまった。玄弥君の話、聞いたらむずむず可愛くてつい張り切ってしまう。
たかが、ひとつの靴下、ハンカチだけなのに甘酸っぱい恋心であろう玄弥君を応援したい。



あっちこっち動きまわっていたら人が多くなってきた。



「あそこで珈琲でもどうですか?奢りますよ!」


「座れりゃどこでもいい」



手前にはバーゲンセール的なものがされていてワゴンにむらがるマダム達がいた。
集団の向こうにかろうじて見えた珈琲の文字。

そうと決まればとこの目の前のマダム達を押し分けて進もうとする。
こんなに安いの?とセールの札には50パーセントoff、半額、タイムセールなどと書いたワゴンに、突っ込んでいる。
私たちはそこには用はないのに引き込まれそうになる。


「巻き込まれないように、気をつけてください不死川先生…!」

この人たちはこのセールのために鬼の形相をして群がっている。きっと真剣だ。
こんな時にもっと背があったらなぁとかよぎるけど小さいもんは仕方がない。
今さら伸びるはずもない背には期待しないことにする。


人の流れに揉まれてよろけそうになったところを強い力で引っ張られた。
もちろん誰かなのは一人しかいない。

「わわっ」


「大丈夫かァ?人の心配より自分の心配しろ」

そのまま腕を引かれながら人の波を突破した。


本当に、本当に、マスクがあってよかったと思う。見られたくない。
だって今どんな顔をしてる?
そんなの自分がわかってる。
耳まで真っ赤だ。

ガバッと、不死川先生の後ろ姿を見るとなんとなく耳の縁が赤い気がした。




お店の前でスッと離された腕が熱い。



※※※※


「女っつーのは皆そうなのかァ?」


こうやって対面で飲んだり食べたりするのは新鮮だ。
ずっとブラック珈琲に甘いものなんて食べない顔だな(失礼)と思ってたんだけど。
二人揃って甘いカフェオレとケーキを食べている。


目の前の強面とケーキに喜んでいるようなギャップの暴力的な可愛さ?に頭が痛い。



「私も1人で買い物するときは色々と見ますよ!男性はどうなのかわかりませんが…疲れましたか?」


フォークにケーキを刺して食べる不死川先生を写真に撮りたい。


「疲れねェけどよ」


ああ、
私もモンブランにすればよかったなぁ。
栗美味しそう。

そんな気持ちが駄々漏れだったのか、
いきなりモンブランの頂にのっかってる栗を半分強引に口にいれてきた。


「む!?」


「間抜け面。」

そういうとククッと、喉をならして笑ってる。


「酷いです…けどおいしいです!」



もぐもぐと咀嚼するとほのかにキャラメリゼされた栗の甘さが広がって幸せだ。



「お礼にどうですか?」


すかさず私のショートケーキの苺にフォークを刺して差し出すと


「……アホか。それごと差し出すんじゃねェ」


そういって苺だけ取られた。なんでかな?




「可愛いのたくさんありましたね!ここのお店のとか大人っぽいしよさそうでした」


お店の地図のパンフレットに丸をつける。


「ちょっと大人っぽすぎねェか?所詮ガキだろ。」


お店お店で不死川先生の選ぶものはキャラものが多くて笑ってしまった。
確かにりらっ◯まとか可愛いけれども!
下の兄妹に色々買っているんだろうか。

り◯っくまのハンカチを掴んでる先生はもっと可愛かった。


「この年頃の子達は少し大人っぽい事したいんですよ!」


そう力説するとチッと舌打ちされた。


「玄弥も大きめの制服買って腰パンしてよォ…見ちゃいられねェ」


確かにこの時期の男の子はみんな腰パンだ。



「玄弥君背が高いですもんね!この学園の先生達は背が高いですよね。煉獄先生は迫力もあって大きく見えるのかも。宇随先生は…背中大きいし筋肉質ですよね。ジムでもいってるのかな」

この前バイクでちょこっと走った時に掴んだ背中は大きくてゴツゴツしてた。
線は細い顔してるのにムキムキなんだな。

顔はイケメンなのにマッチョってなんなの。

そうぶつぶつぼやいてると不死川先生の顔が曇る。


「……宇随と…」



「…はい?」



「…なんでもねェ。出るぞ」


急に立ち上がってレジへと向かった。
怒らせたかな…?
いつも以上にぶすくれてる顔の不死川先生を横に何も話せない。
教頭にも怒られたしなぁ。悪気は全くないんだけど…
生徒達の模範になる身。
気を付けよう。




チラリと外を見るともう夕方だ。



「わりィ、ネクタイみていいか?」



「もちろんです!」


そのまま売場にいってそこそこいい値段のコーナーのを数本掴んでレジへと持っていく不死川先生を止めた。


選ぶというよりほんと見ただけ。


「ま、待ってください!いつもそんな感じで選んでるんですか!?」



掴んでいるものも変ではないやつだけど!



「ア゛?んなもんなんだっていいんだよ。」




「じゃあ1本は私に選ばせてください!」



そうお願いするとため息つかれてポンとおでこをつつかれた。



「あんま変なのにすんなよ?そこで待っとくから」



そういって1万円もたされた。
はじめてのお使い気分。



悩んで悩むこと10分。不死川先生は黒のベストよく着ているから濃紺のワンポイント金の刺繍がついてるのを選んだ。





「これだけでいいんですか?あと何本か欲しいんじゃ?」






会計をすませて立ち寄ると品物を受け取って駐車場の方へむかった。



「玄弥と来た時に買わせる。あいつバイトも始めたらしいしなァ」




買わせるって!たかる気ですかお兄さん




日も暮れて夕方。
大量に作ったらしい肉じゃがを分けてくださるらしく一旦不死川先生の家によった。
保冷バックに入ったジップロックからはとってもいい匂いが漂う。





「何から何まですみません」




家の前につくころにはすっかり暗くなっていた。



車からでて運転席の方へ向かう。
再度お礼をいおう。
すると窓を開けてひとつ小さな袋を渡された。



ご丁寧にラッピングまでしてある。




「これ…」





「ありがとなァ…」



その質問に答える間もなく去ってしまった不死川先生の車をずっと見ていた。




マンションはすぐそこなのに、そわそわして袋を開けると、私が買おうか悩んでいたハンドタオルが1枚と、りらっく◯の靴下が入っていた。







end








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