弁解したいのに。

徐々に過ごしやすくなってきた秋。
そろそろカーディガンでも必要かと一枚薄手のものを羽織る。

窓から見えるグラウンドには、長袖で部活をしている生徒もちらほら。

実力テスト後の体育祭も無事に終えてやっとゆっくりかと思いきや今度は文化祭の準備だ。


ひとまず体育祭前の怪我人三昧日和からは脱したから今のところ毎日スムーズに働けている。


ふと外をみるとサッカー部の男の子が近くまで駆け寄ってきた。


「タケせんせー!俺ら文化祭でお化け屋敷することになったから!保健室かりるなー!」


「かりるなー!じゃなくてかりますでしょ!」

そう話すとすんません!と謝ってきた。礼儀正しい。


「お!抽選にあたったクラス、お前んとこのだったのかよ!いーなー」

その大声を聞いていた他の生徒もこちらに駆け寄ってくる。

「しなせんがくじ引いた!」
「他のクラスもお化け屋敷したいとこあったもんなー」
「3年最後だしな!受験前の最後の祭、まかせてくださいよ!」

ドォンと胸を叩いてむせた生徒がとても愛らしかった。年頃の男の子なのに。

くすっと思わず笑ってしまう。



学生達の2学期は青春イベント盛りだくさんである。






たとえば君が






そういえばさっきの生徒、しなせんって言ってたな…。

あの事があってから、不死川先生とは微妙な距離になってしまっている。
というかお互い気まずくてどうしてわからない感じだ。

「よォ…」
「おはようございます」

これくらいしか会話がでてこない。



目もあわせられない。


私が宇随先生と付き合ってるか聞かれて、すぐ違うと言えなかった。

なんでかわからないけど、咄嗟に不死川先生にそう思われたのがショックだったんだと思う。

恋愛経験値ほぼ皆無の私にとって付き合う、付き合わないなど男女のいざこざはとても難しいのだ。

弁解したい、、誤解されたくない。
胸がつんと苦しい気持ちは初めてだった。

でも、そう思った時はすでに数日経っていて。
なんと話していいかわからなかった。


いちいち捕まえて「付き合ってません!」
なんて言ってもいいの?
想像するだけでそれもなんだか気恥ずかしいのだ。
「あ゛?別にそんなこと気になってねぇよ」
そう言われそうで怖い。





「あ?んなこと不死川が言ってきたのか?……へぇ……おもしれぇ…いいじゃねぇか!俺は別に誤解されたままでかわまわねぇよ!」
宇随先生には早々に事のいきさつを話してポカリのお礼が言えた。
というか毎日さぼりに来るから嫌でも話せるし。

ニタリと笑う宇随先生に何か嫌な予感しかしない。

「かまわなくないです!こんな私となんて」
「お前なぁ…ちったぁ自分を可愛がれよ。化粧もすれば別嬪になりそうだしなぁ?」
そういって頬を触ろうと手を伸ばした
「学校に化粧なんて二の次でしょう!」
「…ったく素直じゃねぇの。可愛いつってんだからありがとうくらい言えよ。」

しばし沈黙の末顔が赤くなる。
異性に可愛いなんてい言われた事がないから…


「お?赤くなってる。女は愛嬌ってもんだぜ?」
「もー。苦手なんです。褒められたりするの。」
「……まぁ…なんだ。俺は別に誤解されたままでもいい。そのほうが面白そうだしよ。」
「何をたくらんでます?」

ケタケタと笑う宇随先生にため息しかでてこない。


でも宇随先生には迷惑がかかるはずだ…
私みたいな地味な女となんてごめん被りたい はず。



「いっそ本気で付き合っちまうかぁ?」
「かっ!軽い人は遠慮します!!」


ずいずいと宇随先生の背中をお相撲さんみたいに押し出して保健室から追い出す。





なんとか伝える術を考えつつもよそよそしい態度に傷つき、早数ヶ月経っていた。




「文化祭の準備かー…不死川先生のクラスてことは…」
打ち合わせとかあるもんね。。

よりによって不死川先生のクラス!
でもこれはチャンスかもしれない。



ふんと拳を握り、目の前の仕事に没頭した。





夕暮れ時も涼しいから部活をしている声が聞こえる。
こっちこっちー!ボールいったぞー!
そんな生徒達の声を聞きながら仕事をするのが好きだ。


しばらくぼーっと外を見ていると、

「あでっ!」
「よォ…あんま外ばっか見てっと仕事終わんねぇぞ…」
見上げたそこには不死川先生が。
持っていた丸めた資料で頭を小突かれた。

「不っ…!不死川先生!どうされました!」

一気に鼓動が上がるのがわかる。
緊張してるんだ。
2人きり、になるのは久しぶりだからだ。

「来週の文化祭…うちのクラスが保健室使ってお化け屋敷するらしい。その打ち合わせと思ってよォ…いつがいい?」


椅子をもってきて横に座ってきた。
ふわっとかおる、先生の匂い。


私…1度先生の家に…
そのときのことを思い出しては脳内を爆発させる。


流れとか、準備のことを説明してくれてるのに頭に内容が入らない。


「…おい?」

横から覗き込まれるとばっちりと目があった。


「あ!はい!へ?」



「大丈夫かァ…?あんま根積めるなよ…じゃ、明日の放課後な。」



ポンポン、とまた資料で頭を小突かれそうになった。

一瞬構えてしまう。
恥ずかしくて、びっくりして。

「あ…わりィ…」

すると、その手を止めてさっさとでていった。


触れられる、と思ったのに触れられなかった。それがなんだか悲しくて。でも話せて嬉しくて。



お疲れ様です、と一言消えるような声で言ったのに、おう。と返事をしてでていった。


ほんの数分の出来事。だ。




そしてその後手洗い場で鏡をみる。





「……私…なんっって顔してんの!」






end


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