パーカー事件






「えっと…あの」

「それに…俺がどうでもいいやつと居ると思うか?」


確かに、不死川先生は馴れ合う性格じゃない気がする。
宇随先生や煉獄先生みたいに人当たりがいいわけでもないし…。


んー。。んーーー…。
ん?

へ?



「ったくそんな顔すんな…。こっちまで変な顔にならァ…。俺がしたくてしてんだから気にすんな。また学校でな。」


そういって家のマンションの前で下ろしてくれた。

その時の横顔がとても印象的で…なんとも言えない気持ちになった。
それよりも!どういうこと!?

変に勘違いしそうなんですけど!





たとえば君が



眠れぬ休日を過ごして出勤した。
くそう…こんなに悩むなんて…。



「はよー!先生どうしたんだ?」

季節はもう冬に片足突っ込んでるくらいの寒さなのに嘴平君は今日も半袖だ。


「おはようございます。半袖なの!?冬なのに寒そう…風邪引かないでね。」

「俺は年中半袖だ。寒さになんて負けねぇ。悩みごとか?」


自然と戦っているのね…嘴平君。本当に強そう。

「考え事よ。大人には色々あるの。ほら教室いったいった!」

「ふぅん。大変だな。」


元気よく廊下を走る嘴平君の背中を見ていたら途中で不死川先生に見つかったらしく。ドタバタと音が聞こえた。


「廊下を走るんじゃねェエエ!!」


「ガーッハッハ!捕まえてみろ!」


いつものやりとりが始まった。
あれから不死川先生とは職場ではいつも通り普通だ。



「溜め息何回目だ?」

「うっわびっくりした!宇随先生、お久し振りですね。サボり。」

「二学期は忙しくてよー。やっと冬休み目前だな。夕方は冷えんな。おーさみ。ストーブ着けてくれよ。」

「生徒を暖める意味であるんですけど!」

「良いじゃねぇか。へるもんじゃねーし。」

「減ります。灯油が。」

「不死川となんかあった?」

バサリ、とプリントが落ちる。あれから、普通、にしてるつもりだけど。


「いつも通りですけど。」

「ふうん。最近可愛くなったんじゃねーの?好きなヤローでもできた?」

「ち、違います…!」

宇随先生は前からこんな風に人の心の中を見透かしたような的中で言ってくることがある。
変に意識してしまっていたけど…あれから期末テストやらインフルエンザが流行ったり、とお互い忙しくしていたから。

そういえば寒いな?宇随先生の言うとおりにしたくないけどしぶしぶストーブに火をつける。

ロッカーの中に確かカーディガン持ってきてたような…
あーあ…家だ。ない。ブランケットでも、とロッカーを漁る。
そういえば寒気がして通勤用のジャケットを羽織ったままだった。
それなのに寒い、何故だ。


「不死川良いやつだぜ?頑張れよ。っつーかお前熱あるんじゃね?顔真っ赤だぞ。」

オラ、と生徒用の体温計を差し出される。有無を言わさず計ると微熱が。


「これくらいなんてことないです。微熱ですし…寒いですけど」



「もう上着持ってないのか?」

「あいにく持ち合わせてなくて…大丈夫です!そろそろ退勤の時間ですし!」

「俺は通勤バイクだしよ…帰り大丈夫か?タクシーでも呼ぶか?」

宇随先生が顔を覗き込んで来ておでこを触る。近い、恥ずかしい。
ほんとこの先生も顔は整ってるよなぁ…うらやましい。


「いざとなれば呼びますので、」


「こんなんしかねぇけど、羽織っとけ。なんかあったら電話しろ。」

そういって自分の着ていた薄手のパーカーを着せてくれた。
この人はなんというか…人の懐に入るのが上手いと言うか。



美術部の集まりがあるらしく出ていった先生にろくにお礼も言えずそのままデスクで突っ伏した。


ストーブが逆に暑い。汗かいてきた。ってことは熱下がるんじゃない?

そうお気楽に退勤ぴったりにタイムカードを押して靴箱に向かうにもヘロヘロだ。


これはヤバイ、おそらく熱がある。
確か解熱剤あったよなーとしゃがみこむけど飲み物がない。
売店、か自販機の方へと足を進めたいのに思うようにいかない。



「…んーー…どうしよう。」


とりあえず座り込んでいた時に、頭上から不死川先生の声がした。


「…タケ?どうした?大丈夫かァ…?」

「不死川…先生…大丈夫です」

「んな顔してねェけどな。熱…あるんじゃねェか?」

そういって目の前にしゃがみこみ、おでこやほっぺをムニムニと触られる。


「いひゃいです」

「わりィ、餅みたいでつい。」

なんてことを!太ってるってこと?!いつもなら言い返すのに今日はそんな元気ない。


「待ってろォ…」


そういって居なくなること数分、お茶と鞄もってまた現れた。
帰るのかな?ジャケットまで持ってきて靴も履き替えてる。


「薬、あんだろ。飲んだか?」

「いや…まだ」

ポッケに飲もうと思って飲みそびれた薬を見せると、す

「貸せ。」


そういって袋からだしてお茶まで蓋を開けてくれた。
されるがままだったけど無事に飲めて良かった。効きはじめたら少しは楽になるだろう。

「ありがとうございます」

「送るから乗れ。車持ってくるからよォ…」

ここ、校内…とかそんなん気にしないといけないのに。
頭がボーッとして普段の判断能力もなくて。
ありがたいな、歩いて帰るの辛いからって乗ってしまった。


しばらく走ると近くのコンビニで停めた。

「ポカリとか買ってくるからよ、待ってろ。」


この人は本当にお兄ちゃんだな、と小さくお礼を言って、待っていた。
また貸し作っちゃうなぁ…とか
不死川先生なら許してくれそうだな、とか。


「冷たくて気持ちいいだろ。」

「生き返りますね…体に染みます。」

冷えたポカリを貰い、しばらく駐車場で休憩してくれる。
暑くて上着をパタパタとさせる。
そういえばインナーに宇随先生のパーカーにジャケットを着ている。
暑いわけだ。

何も言わない不死川先生の方を見ると、少しお怒りなのか、眉間に皺が寄りまくっている。

あれ、なんか怒らせた…

「…脱げ。」

「はい?」

「それ、今すぐ脱げって言ってんだァ…」

「どういう…」

ここは駐車場、いまは人の往来もないし暗いけど…ってそんな問題じゃない!

脱げですって?!




「…宇随の…着てんじゃねーよ…」






end



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