拉致られる


「おらよ、これ着とけ。頼むから」

おもむろに後ろの席のバックから着替えを取り出す。
厚手でも薄手でもない調度いいトレーナーを掴んで渡された。

「あの、」

「いいから。それ早く脱げ」

プイッと横を向いたので素早く脱いでトレーナーに着替える。
宇随先生のもだけど不死川先生の服も大きくて袖がダボダボしている。


意識が朦朧としているなか、着ていた宇随先生のトレーナーを畳んでバックにいれようとすると、阻止された。


「明日は休め。パーカーは俺が返しててやらァ…」

「でも、洗濯」

「しとくからよ。んで宇随に投げつけてやらァ」

そういってフンっと強制的に奪われた宇随先生のパーカーは、ぐちゃぐちゃポイッとされて、後部座席でしょんぼりしているみたいだった。




たとえば君が




「ありがとうございました、明日は行けたら…出勤します…ので」

「無理すんな。明日は行事もねェし、有休あんだろ?教頭に連絡しとけよォ…」

フラフラしてきた。
大人の熱はこれだから困る。
めったに熱なんてでないからたまにでるととんでもなくきつい。


「代わりの先生はいないですし…」


他の先生は休んでも自習とか、時間割代えられるけど。
養護教諭の代わりはいない。
怪我とか熱とかの生徒をみる先生がいないと…


「んなもん他の先生ができんだろ。嘴平にはぜってェ転ぶなって言っておくからよォ…気にせず休め。」

「フフ、追いかけっこいつも楽しみにしてるから…残念で…す」



帰ったら即効薬飲もう、そして寝ないと。でも何か胃にいれないと…



何が冷蔵庫にあったのかも思い出せない。米を炊いてたかなぁ…




「…1人で大丈夫かァ?」

「…大人ですから、こんな熱、なんてことないです。送ってくださり助かりました」


今日は歩いて帰るにはしんどかった。


荷物をまとめて車を出ようとすると、チッという舌打ちが聞こえて発進する。

「え?あの」


「嫌かもしんねェ。でもこんな状態で1人にできねェ。だから…今夜はお前拉致っていいか?」

「へ?」

「なぁに、泊まったことあんだろ。俺んち」


そういって有無を言わさず不死川先生の自宅へ車を走らせる。


えええ!?!?




「だ!駄目ですよ!不死川先生明日は仕事ですよ?私なんかいたら邪魔です!」

「お、でかい声でんじゃねェか。元気になったかァ?」


くつくつと冗談めいて笑う不死川先生。本当に休ませたいのか?


「か、らかわないでください!それにうつしたら大変ですよ!」

「俺は風邪なんてひかねェ。」

そりゃひかなさそうだけれども!

恥ずかしすぎて休める気がしない!



「下の妹がよォ…しょっちゅう熱出すんだ。だから慣れてる。心配すんな」


「そういう事じゃなくて!」



「シャワー浴びて飯食って寝るだけだろ?」


そう言われ、頭がパンクした。
恥ずかしさの頂点を越えて、それでももう何を言っても聞いてくれなさそうだから大人しくすることに。


「病人は病人らしくきつい時は甘えていいんだよ。」


せめて下着の替えだけは欲しくてまたコンビニに寄ってもらうことに。


「買ってきてやろうか?」


「結構です!」






逆に熱が上がりそうなんですけど!!!!



end

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