部長として

「へ?いや…あの」




「しばらく見ていたらマンションに入っていったから気になってな…プライベートなことを聞いてすまない。」



いつものキリリとした眉が下がっている。
どうしたんだろう…

できてると思っているの?!
義勇と私が?100%ない!


何をどう話せばいいのかわからずしばしの沈黙が続いた。


何も悪いことはしてないと思うのに
このギラギラとした視線から
目が、反らせない





これからの2人





「あ、あの、私…」




どこから話す?
どんな状況だったか思い出そうにもよく思いだせない…!
鼻血だしたとこから!?



慌てていると部長がいきなりガバッと頭を下げてきた。





「すまん。悪かった。話したくなければしょうがない…」



部長もだんだんと最初の勢力がなくなってきてだんだんと小さな声になっていった。




ここで弁解をしないととんでもないと直感で思った。


部長には誤解されたくない…


なんでだろう…




「頭をあげてください!謝られるような事じゃ…義、冨岡さんがいきなり鼻血を出したので手当てをして…すぐ追い出しましたよ!」



そうなんだけど。

ただそれだけの事だったのに義勇が意味不明なことするから調子が狂ったじゃない。






「それに…家に上げるのも初めてでしたし、頻繁にはないです。むしろ教えてないのに家を知っていたことが不思議で…」


きっと実家の母にでも聞いたのだろう。
やりそうなことだ。





「そうか…すまなかった。プライベートな事を。」




「いえいえ、珍しいですね。部長がそんなこと聞くなんて」



まさか昔会社の人とできてたとか!?
社員同士でトラブルがあったのかなぁ…





「時にマツ。冨岡だからと思ったようだが容易に男を家に上げないように。心配する。これは…」






一瞬ふと部長の顔が曇ったような気がした。
複雑そうな、言葉にできないような表情。








「部長としての忠告だ。いいな?」






ドキっとした。
と同時にチクチクとする心臓。


困ったように笑う部長にはい、と頷くしかできなかった。




残りのお弁当を摘まんだけど食べた気はしなくて。なんとなく気まずい。
きっと食べ終わるのを待っていてくれているのだろう。




そういえば


何を部長にこそこそ話をしてたのか気になる…
義勇のことだ、失礼なことを言ったに違いない。
義勇にかわって謝らないと…





「冨岡さんがあの日、何か失礼なことを言いませんでしたか?あの人空気読めない所があるので…」




いそいそとお弁当箱やら水筒を片付けているとコーヒーを飲む手が止まった。



何も話さない部長に目をやると大きな目が伏し目がちになっていった。








「…ただの宣戦布告だ。全く…困った新人だ。」




くしゃ、とコーヒーカップを握りつぶすその手にはいつもより力が籠っていたように思えた。





end















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