気づいた?


「すまないな、こんな忙しいプロジェクトの前に出張なんて」



「しょうがないです。できることは私がしておきます。」


あれからなんとなくいつもと違うようなマツにいつも通りと思えば思うほどうまくいかない関わりかたになっている。




「うむ。何かあったら連絡するように」



そういって付箋紙に電話番号とラインのIDを書いてマツに渡した。
電話番号だけでも連絡の手段は事足りるのに、そこまでする自分に正直驚く。






俺は…どうしてもマツが気になるらしい。





これからの2人




出張は数日。泊まりがけで隣県での会議に出席する。


途中コンビニに立ち寄ってコーヒーを買う。助手席に置いてある鞄から財布を出すと、ふと、隣を見て思い出す。




一度助手席に座ったことのあるマツが今でも思い浮かぶ。
あんなにも慎重に運転したのはいつぶりだろうか…




鮮明に思い出せるマツの姿。



咄嗟に貸した俺の服を着ていたが、
その…なんというか。



いつもとは違うからか、とても…




「何を考えてるんだ、俺は」



くしゃ、と髪を掻き分ける。



彼女は職場の人間であり、部下だろう。

はぁ…と息を吐く。
冷房で少し冷えた空気が肺に染み込む。


考えないようにするも、脳裏をよぎるあの日。


冷房は大丈夫だっただろうか…
散らかってなかったか、そんなことばかり思い出しては失笑するしかない。





冨岡の言葉がずっと引っ掛かっている。





【女性の家の前で待ち伏せなんて男としてどうかと思うが】



マツに聞こえないように冨岡に忠告する。
親しいとはいえ当たり前のことだ。

わきまえてこそ、だろう。


【プライベートなことなので邪魔しないでください。】

いつも通りのひんやりとした目で話す冨岡は俺の顔すら見ない。


【心配している……上司として】



【上司としての忠告なら必要ない。】



そう言い放ってマツの方へ歩いていく冨岡を止める理由もなく、俺の頭は何かしこりのような気持ちの悪い物が残っていた。
今でもそうだ。



心配しているのは確かだ。

間違いなく心配しているのだが。





誰を?



何を?



上司として…なのか?






※※※※





会議最終日まで鳴らないスマホに嫌気が差してきた。


普通近状を上司に連絡しないか?


だが、普段業務連絡しかやり取りのない間柄だ。よっぽどのことでないとするはずがない。

それに真面目なマツの事だ。俺を気遣っての事だろう。


自分でそういう間柄だと認識して
何故か気が落ちる自身に理由もわからず。


気にしても仕方がない。
こっちから送ってしまおうか…
でも何を送るんだ?

ふぅ、と息を吐いて考え直す。
余計なことはやめよう。明日には出社する。


明日には会える




コーヒーを飲みながら携帯をポケットにしまう。



「よォ…来てたのか…」



「不死川…!来ていたのか?」


顔に似合わず選ぶのは決まって甘い飲み物。
サッと自販機を見て出てきたのはミルクティー。本当に顔に似合わない。



「今日は月末の案件の先方が来ると聞いてよォ…視察に。しかし話ばっかじゃつまんねェな…」

壁に寄りかかって飲むサマはいかついのに飲み物でやや中和される。
懐かしいこの距離。


「この前は悪かった。俺の部下が」



「あ゛ー…俺も悪かった。変に突っ掛かっちまった。お前の新しい相棒か?」


「…うむ、よく頑張ってくれてる」



ゴクゴクと喉をならして飲むものだから美味しそうに見えてきた。
たまには甘いものでも飲んでみようか。

マツもよく飲んでいる。





「……それにしてもあいつ、昨日は俺もびびったぜェ…やる気があるというか、怖いもの知らずじゃねェか。危なっかしい。」



一瞬息が止まる




「なんのことだ?」





改めて不死川を見る。
久しぶりにまじまじと見た不死川は変わらずだったが、それよりもだ。






「俺の部下が現場に行ってたんだけどよ、ちょうどお前の相棒もいて…聞いてねェのかよ…」





不死川が聞いた内容に酷く驚いたとともに、ぐしゃっとコーヒー缶を握りつぶした。











end











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