頑張りやさん

「あ…おい!煉獄!」


「すまん!あとは頼む!」


若干キレ気味の不死川を振り返り、気づいたら車で向かっていた。








頼むって…もう同じ会社じゃないのに。
かつての同僚の名残か、
失笑するしかない。



目的地はマツのもとへ








これからの2人







マツのマンション前。
自家用車を近くのコインパーキングに泊めて足早に向かう。


といっても部屋がわからない…


ポストを見るとたまたまマツの宛名の葉書が入ってる場所があった。




「…303…」





オートロックの303のボタンを押し、インターホンを鳴らす。


待つこと数秒。
随分と長く感じる。





「……はい…」



「マツか?煉獄だ。頼むから会わせてくれないか?」



「部長…!なんでここに!」



先日冨岡に言ったことを思い出し、苦笑いする。
むやみに女性の家にいくものではないと、忠告したのは俺だ。



「不死川に昨日の事を聞いた、顔を見ないと安心しない。少しだけ…」



少しだけ…
俺は何を言おうとしてるんだ?
嫁入り前の女性の家にあげろなんて



男としてどうかしている。



尻すぼみになった語尾にマツがインターホン口でクスッと笑ったような気がした。




「散らかってますよ?」




そういってオートロックのドアが開いた。






※※※※※※







「ごめんなさい。」




「何事も無理をするなと言っただろう。」





初めてあがるマツの家。
シンプルなのにカーテンやらが女性らしくてまじまじと見てしまう。



コポコポ、とコーヒーを作るマツはラフな格好に熱さまシートをおでこに貼ってある。



「だってどうしても不死川さんの会社より良いものを提案したかったんです」



タッチプールを成功すべく、漁業組合に行ったらしいマツは何度か断られている。

諦めきれなかったからもう一度行ったら、船長に頼んでやるから待っていろ、と。
でも海から帰ってくるのがいつになるかわからないと言われ…




「朝一から夕方まで待っている必要はないだろう。」




「どうしても頼みたくて…絶対会わなきゃと思ったら…すみません…私も午前とかに戻られると思っていたんですけど」





案の定炎天下の海端だ。
気分が悪くなったところを不死川の部下に話しかけれたらしい。



「不死川も心配していた。」



いや、違う。
心配でいてもたってもいられなかったのは俺だ。




「アホって思われたかもしれません。」




「体調はいいのか?」



「はい、今日はわりと。会社は休みましたけど、部長こそ出張は…?」




「問題ない。と思う。」


「なんですかそれ」


クスクスと笑う顔にほっとした。


途中で抜けてきたなんて言えない。



「あと、水の生き物の提供だけだったので…でも頑張ったお陰で前日に提供してくださることになったんです!しかもうちの会社に!」



とても嬉しそうに笑うマツを思わず抱き締めたくなった。


拳をきゅっと握る。




何を、しようとしているんだ俺は。




「あまり心配をかけないでくれ。俺がもたない。今度からは小まめに連絡がほしい。」





「…出張…の時ですか?」



目をぱちくりしているマツに俺もはたと止まる。
連絡がほしいなんて
俺は…







「日頃からだ!!コミュニケーションも大事だろう!」


ハッハッハと誤魔化して肩を叩くとマツもフフフと笑っている。




「出張中に余計なことを連絡してもと思ってしませんでした。今度からは連絡いれますね。その方が仕事がスムーズになりそうです!阿吽の呼吸ですね!」





「君の事は余計ではない。俺にとって君は、とても大切だ。」




「へ?」





一瞬顔が赤くなったような気がした。
そのマツを見てたまらなく愛おしくて
触れたくなってしまう。

本能のままに動いていいのなら、きっと抱き締めていた。



「あっ…あの、部長を驚かせたかったんです!帰ってきたら。喜んでもらいたくて。こんなことになっちゃいましたけど…結果オーライです。」




一瞬フリーズする。



そんなに可愛いことを言わないでくれ。




小さいテーブルにアイスコーヒーのコップが2つ。




ここに冨岡も座っていたかと思うとどうにかなりそうだ。






「マツ…社内以外では部長呼びは無しだ。いいな?取引先や出先では名前で言うように。」







「…はい!煉獄さん、ですね!」



「体は辛くないか?何か食べるものを買ってこよう。」




そういって困惑するマツの家にありったけのお総菜を買ってきた。







end



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