悔し涙

「ということで今回は不死川の会社が担当することになった。ギリギリまで粘ったのだがな…しょうがない。また次の企画を共にがんばろう!」


朝のオリエンテーションで部長が話した事に頭を打たれたような衝撃がした。



あんなに頑張ったのに…
皆さんに協力的にしてもらったのに…



気づいたら涙がポロポロと溢れてきて
蜜璃さんに背中を擦られながらぎゅっと拳を握る。



ああ、私何も役に立ってないなぁ…










これからの2人








「落ち着いたか?」




「すみません…仕事中に…」




オリエンテーションの後に、提供してもらう予定だった取引先の方々にお断りの電話をいれていた。



【残念だったね…】
【せっかく集めてたんですけどね…】
【あんなに熱心に待っててくれたのに!】


などなど電話口で言われて涙が止まらなかった。


「汚すんで大丈夫…です…」


きちっとアイロンのかかっているハンカチを渡されるもおそれ多くて受け取れない。
部長の大事なハンカチを汚すわけにもいかず



「構わない。」


そういってちょっと無理やり私の涙を拭ってくれた。



大手大型ショッピングモールはプレゼンで不死川達の企画を採用することにした。

季節が不安定な天気な時期だから、もし海の生物がとれなかった時のリスクを考えたら当日のイベントは台無しだ…
大きな損失になる。


漁業組合の人たちも言ってた。
善処するが確実なことは言えない、と。


そりゃ言われて当然だと思った。



「私が…甘かったんです。目の前の対象が喜ぶことだけを考えて、リスクとか気にかけてなくて」



未熟な自分にも泣けてくる。


あーあ、もっと視野が広かったらなぁ



「うむ。マツの熱意は伝わった。先方もいい企画だったから時期をみてどうかと言ってくれていたぞ。一生懸命動いてくれてありがとう。」





「不死川さんにも負けちゃったし、部長悪く言われたままで嫌です…」


ぐずぐずとする私も止まらなくて。
でも部長は私の足元に屈んでゆっくり顔をみて話を聞いてくれた。




「……不死川も悪かったと言っていた。君の熱意は伝わっている。それよりも…だ。君は無茶をしないこと。」



「無茶って…ただ待ちぼうけだっただけですよ」



せっかく漁業組合の方達とも打ち解けてきたのになぁ。



「……体が基本だからな。君が元気じゃないと心配する。これからは1人で無茶せず2人でがんばろう!」





差し出された手に思わず手を握る。


よし。
切り替えてがんばろう!
次こそは絶対通る企画にして部長喜ばせよう!



ん?喜ばせよう?








「2人で、じゃなくて4人ですよね部長。」



「冨岡…!」


話を聞いていたらしい義勇が部屋へと入ってきた。





「ちょっと!ノックくらいしてよ!」




「タケ、今夜付き合ってくれないか?あとで連絡する」




そういって資料を2部置いてでていった。







※※※※









「義勇!待った?」



「今来たところだ。行こう。」


仕事上がりに久しぶりに義勇と話をすることに。近くの喫茶店に入る。



残っていた部長に軽く会釈をして先に帰る。ここのところ帰りが一緒だったから少し申し訳ない。




今日行くのか?と、聞かれたけど行かないわけにもいかず。

会社の入り口で待ち合わせした。



「きゃー!あの人誰?」


「どこの部署の人かな?」



義勇は無愛想だけど顔はとても良いらしい。
きっと会社でも目を引くタイプだ。


目立つのが嫌な私はそそくさと出ていった。






「セットのケーキとホットコーヒーです。あと、ベーグルとアイスコーヒーですね。」



「ありがとうございます」



チラチラと義勇をみてる店員さん。
やっぱり義勇ってモテるのかなぁ?




「で、どうしたの?」




目の前の抹茶のシフォンケーキを摘まみながら本題に入る。



「……体調はどうだ。電話にでないから心配した。」



「もう大丈夫だよー、無理したつもりはないんだけど。次の日に部長が様子見にきてくれて、ご飯とか助かったよ」



冷房の利いている部屋でふぅふぅとホットコーヒーを冷ます。



ガシャ、とフォークが落ちた。



「家にいれたのか?」



いつもの義勇の声色じゃない。
低めの…怒ってるような…






「へ?義勇!?」



落としたフォークを取ろうと屈んだらそのまま手を捕まれて起こされる。
力強…!


「だってお見舞いに来てくれたのにいれないわけにもいかないでしょ?失礼になっちゃうよ」


手を離そうにも離してくれない。



「俺に待ち伏せするなって言った部長がタケの家にあがるなんて…明日部長に話しにいく。」



「ちょっと!何話すの!」




また失礼なこと言うのかな?!
それは絶対やだ!










「俺がタケを好きだいうこと。」




へ?




一時騒然となる喫茶店内。

きゃー!告白よー!と聞こえるけどそんなことどうでもいい。



義勇、もう少し声量おとしてほしい。



「またまた、小さい頃の話でしょ?今更…」




「違う。俺はずっとタケが好きだ。誰にも渡さない。」




そう言って手を引かれて喫茶店を後にした。







end







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