さよなら

あれからというもの仕事にいく足取りが重い。
義勇は何かと来るけど気まずいから避けたりして。それでも来るけど…



「まってくれ、タケ話がしたい」

決まってお昼休みになると必ず部長と私のオフィスに訪れる義勇。
どう思ってるんだろう…


「今仕事場ですよ、冨岡さん?」





むんずと近づく義勇を白々しく押し返してドアを閉める。



いつまでもこのままじゃいけないんだけどなぁ…






これからの2人



私と部長のデスクは少しの空間を挟んで向かい合っている。
この前のことがあってからというもの変に意識をしてしまってる自分がいるわけで。

いつも通りできてるかとても不安だ。


あ、目頭おさえてる。
疲れてるのかなー…アイボンでも置いててあげようかな?ホットアイマスクとか?
いやいやいやいや私どんだけなのよ…!


集中集中、と言い聞かせれば聞かせるほど意識してしまう。
私は恋覚えたての中学生かよ!
とつっこみをいれたい。






「マツ!一段落したら昼にしないか?」





同じ空間にいる部長もとい煉獄杏寿郎さんはとても存在感がある。
近づいてくるだけでまわりの温度が上がってしまうような…というか自分の体温があがっているような気もする


いきなり横にきてかがんで覗き込まれる顔。
私は部長の顔をみたいけど私の顔は見ないでほしい。



「へ!?!は、はい!」



「む?考え事か?あまり無理をするな」



ポン、と頭に手を置かれるだけでも爆発しそう


「大丈夫…です!今日はどうしますか?」



「たまには外でたべないか?」


うまい定食屋を見つけたんだ、そう笑う部長はいつもより少し幼くみえてとても新鮮だった。






※※※※


「おまちどうさま。ご飯はおかわり自由だからね。」



少し年をとったおばあさんが、にこにこしながら2つ定食が運ばれてきた



「うまい!マツにもひとつやろう」



デラックス鶏の味噌焼き定食を目の前にするすると運び込まれる白米。
みていて気持ちの良いたべっぷり。



「わわっ部長がたくさんたべてください!」




「そんなことを言うな、うまいものはマツにも食べてほしい」



「じゃぁー私の生姜焼きもひとつどうぞ!」




何気に部長とお昼に外にでるのは楽しみにしている。
ちょっとデートみたい、だなんて。
意識しすぎてバカみたいって思うときもある。


気持ちよく食べる人とのご飯は格別に美味しくて。
ほくほくとしていた。



「あれ〜?煉獄さーん!お久しぶりですね!」


食事も終盤にさしかかったころに、見知らぬ女性2人が近づいてきた。
でも、どこかで見たことがある…
たぶん他の部署の人だ。



「久しいな!元気にしていたか?!」



「そりゃぁもう!ていうか煉獄さん女性と仕事組んでるんですか!?意外…!」


「新しく入ったマツだ」



「はじめまして」

一応挨拶してみるけど返答はない。

話の流れで紹介されつつもにっこりと笑みを浮かべ、軽く会釈される。




「おかずお裾分けしたりして、まさかとーっても親密なんですかぁ?前言ってたことと違うじゃないですかぁ!」


前言ったこと?なんだろう


「そうですよ!私も部署異動希望で煉獄さんとこ希望したのにー!」


落ちました〜!と、嘆いてる一人の人に慰めに入る。



「君は今の部署がとても合ってるぞ」





「またまたー!仕事に集中したいから、"そういう目"でみる女性とは仕事しない、って言ってたのに親しくしてるし〜」


「煉獄さん人気だからモテモテでしたもんね…あーあ私も煉獄さんの部署がよかったなぁ〜」



目の前で繰り広げられる部長に対する女性の反応はとても好意的だ。他にも部長を気にしている女性がたくさんいたに違いない。


モテる、だろう。きっと。
それは近くで見ていた私はすごくわかる。


変に納得しつつも部長はもはや、酔っぱらいのような言動にたじろぐ様子もない。



「うむ!マツは仕事をよくやってくれているから助かっているぞ。君が何を言いたいのかはわからないが、それだけの関係だ!」



「ほんとですかぁー?今の部署大変なんですよ〜」



そう嘆く彼女に優しく悩みでもあるのか?と真剣に心配している部長を直視できなかった。



ズキッと心が痛んだ。
痛い。
痛い。




そうだ、部長は誰にでも優しいんだ。
優しくて、親切で、頼りになって。

なんとかしてくれる
そんな安定感があるからすぐ寄りかかりたくなるんだ。




仕事、"それだけの関係だ"

その言葉だけが心と頭に何度もこだまして頭が真っ白になる。




目の前の女性とのやり取りをなぜか客観的にみている自分がいた。




私は部長が好き。
だけど部長にとっては仕事でそれ以上はいらない。



ならば少しでも部長の側にいるには



この"好き"という、感情に



さよならしよう。







end










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