男として俺を見てほしい

【10時に迎えにくる】



その一言の連絡に嬉しい半面複雑な気持ちだった。
部長の事が好きとわかった。
だけどその気持ちはしまっておこうと決めたのに。

嬉しいって思ってしまうから。
お誘いも仕事の内であったとしても。

こうやって服を悩んだりメイクに気合いをいれたりする自分がいるんだもの。

無駄だってわかってるのに。


まだ、仕事仲間として部長と一緒にいたい。学ぶべき事はたくさんある。
せっかく推薦してもらって移動してきたんだ。せめて役に立ちたい。


そのために私はこれからも頑張るんだ…


待ち合わせの30分前には支度ができた。
気合い入りすぎじゃん、と笑えてくる。


するとまだ早いのにインターホンが鳴って慌てて出ると、そこには無表情の義勇が立っていた。






これからの2人



義勇?なんで?


【タケ、俺だ。少し話がしたい】

インターホン先に聞こえる義勇の声はしっかりと元気がなかった。
私にはわかる。長年の付き合いだ。
無愛想でも嬉しいときはわかるし怒ってるときもわかる。

「……」


そういえばまだちゃんと話せてなかった。
あの時から彼を完全に無視していたのも悪い気がしてきて…


しばらくの沈黙が続くも名前を呼ばれてはたと我に返った。


【…タケ?】


いつまでもこんなんじゃ駄目だもんね。



「ちょっと待ってて、降りてくる」


パタパタと準備をして下に降りる。
エントランス前には部長が来るから裏手にきてもらった。



「義勇…」



一瞬泣いたような顔をした義勇がこちらを見た。久しぶりにまともに見る顔。


「…タケと話がしたかった。タケに無視されると俺も辛い。」

しゅんとする義勇にやり過ぎたかな、と思ったりもしたけど。


「あの時のこと覚えてる?私怖かったんだよ?しばらく腕にも掴まれた跡が残って、義勇が幼馴染みなのに男の人なんだって思って…」


そういうとぎゅっとその手を握ってきた。
幼馴染みであろう私たちが今さら手を握ることはない。子どものとき以来だ。

一瞬、ビクッとしてしまった。



「怖い思いをさせた、すまなかったと思ってる。」




「…もうわかったから、これからはそんな冗談はやめてよね!無視してたのも悪かったから、これはこれでおしまいね。」


そういって握られた手を笑って離そうとしたけど離してくれない。

「タケ…」


「…何?」


「冗談じゃない。俺は本気だ。昔からタケのことが好きでたまらない。友達に…相談したら俺の思うように行動したら伝わるって聞いたから…」


思うようにて…

だからってラブホなんか…!
誰だそのアドバイスした友達!
確かに口下手で伝えるのは苦手かもしれないけど!


「俺はタケに触れたいしキスしたい。」


「…キっ!」



一瞬顔が赤くなってしまった。

ド直球すぎるでしょ!



「それに俺が冗談を言えないやつだってのはタケが一番わかってると思うんだが、」


確かに、義勇がういう類いの冗談を言わないのは私がよくわかってる。



もう誤魔化しもきかない。



「部長が気になってるのもなんとなく気づいた。」




「へ?!」



義勇そういうこと疎かったじゃん!
モロバレなの私?



「最近、部長をみてる時のタケが辛そうに見える。昔からよく見てきてるから分かる。俺ならタケにそんな顔はさせない。」



珍しく義勇がよく喋ってる。
とかはさておき…
じりじりと迫ってくる義勇から目が反らせない。



「…それは…」




「幼馴染みとしてじゃなくて男として俺を見てほしい」




とどめの一言。
そこまで迫りくる義勇を払い除けられなくて。何も言い返すこともできない。



私は、私はーーーっ……





チラリと腕時計に目をやると、時は既に10時。





「…ごめん、義勇。用事があるの、仕事の。この話はまた…」






そういってその場から離れた。
顔も見ずに。


ごめん、ごめんね義勇。




マンションの角にあるミラーを見て、今の自分の表情をどうにかしなきゃって。

何て顔してんだ。




今から仕事、仕事。



ブンブンと頭をふって頬を叩く。
エントランス前には見慣れた車が停まっている。




どうか、いつも通りの私ができますように。






end





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