本音

日も暮れて夕方。
俺たちは仕事という名目でハーモニーランドに居る。
ここでどうにか仕事の方向性やピンと来ればいい、そう思っていたのに。



「楽しかったですねー!」


「ああ、俺も来れてよかった!ここには千寿郎とは行けないな」


そう言うとくすくすと笑いながら甘露寺にと買ったお菓子のお土産を嬉しそうに握っている。


目の前のいつもとは違う楽しそうな表情のマツに、俺も言いようがない感情が出てきた。


この感情は、きっと…







これからの2人




一日中遊び倒した。
目の前のマツは日頃仕事中に見せる顔とは違って少女のように楽しんでいる。

「可愛い…!」


一言で言えばピンクの世界。
パステルカラーだけではないキラキラとしたものが視界に入ってくる。
俺の目は始終チカチカしていた。



「部長あっちにもいってみましょう!こどもがたくさんいます!」




それはもうマツが喜ぶものだから、あっちもこっちも走り回った。
なんという体力。
俺もまだまだだな…。



「…マツ夕飯はどうする?今日のお礼といってはなんだが一杯どうだろうか。」



帰りの車に乗り込んだ時刻は18時。
ぼちぼち居酒屋も開くころだろう。



「私はいいですけど…部長は車ですよね?それに週末は実家に行かれるのでは…」



「代行で帰る。家には用事と伝えてあるから問題ない。…それに…今日のまとめも踏まえて話をしたいのだが…」


本当なのか?俺。

仕事の話がしたくて誘ってるわけではない、はずだ。
単純にもう少し一緒にいたいと思っている自分が居る。

仕事というと必ずマツは付き合ってくれるのをわかっているからだ。
我ながらずるいと思う。



「そうですね…職場で一緒に行ったことがばれると面倒そうですもんね…!先にざっくり整理して帰りましょう!」


にこにこと話をするマツを横に嬉しい気持ちと少しの罪悪感。


「では君と俺の家の間に美味しい焼き鳥屋があるからそこにしないか?」



「ぜひ!」





※※※※※※




「こんなところですかね…」


スマホのメモ一覧に今日のまとめをざっくりと打ち込む。



「これも人気そうでしたよね!ほら、キャラものの風船…」


「そんなのあったか?思い出せないな!」


「私写真撮りました!えっと…」



目の前でスマホをスクロースして探しているマツが何故か立ち上がり横へと座る。


ほのかに香る酒の匂い。
そして互いの汗。


「これです」


酔っているからか、はたして何も考えていないのか。それならば他のやつらにされると大変だ。

マツが近いから俺の心臓はバクバクと忙しい。


職場でも近いことは多々あるのに。



「思い出した…。ありがとう。」



ちびちびとウーロンハイを飲んでいるマツを前にどうしても話が入ってこない。
疲れているのか…?俺も酔いが回ってくるのが早い気がする。


そして今日最大級に気になって仕方がなかった事。
迎えに行った時の、曇った顔。
そしてガードミラーに写る、冨岡。
あれは冨岡だったはず…。


聞くべきか?
聞かないべきか。
そもそも部下のプライベートなことを聞いても良いのだろうか。


しばし沈黙が走る。

気まずくなったのか、席を立とうとしたマツの手を俺はとっさに掴んでしまった。


「へ?」


「そういえば迎えに行く前に…冨岡来てなかったか?人違いなら別だが…」



一瞬顔が曇る。
俺は何を知りたいんだ。
部下のプライベートが知りたいのか?
今まではこんなことはなかった。
仕事さえ責任をもってできるようにと部下を指導してきた。

なのにマツの事となるとどうもおかしい。

冨岡といる風景を思い出すと、ふつふつと腹の虫がおさまらない。





「あの」





「見えていたんだ。何か…あったのか?心配なんだが…」






気になるなら聞いてしまおう。
俺はそういう性格だ。君の事が気になって仕方がない。





「…それは部長として心配してるんですか?」






それは…






「なーんて!すみません困らせて!たいしたことないです!心配するようなことではないので!」




そうカラッとした笑顔でおどけると、急に残りのウーロンハイを一気に飲み干しだした。
あわててマツを止めようとするも、にへらと笑ってほわほわとしている。





「いい時間ですね、そろそろ帰りましょうか!」


先に立ったマツを追いかけるように会計を済ませ、夜風に当たる。



最後の一気飲みで酔っぱらったのか、よろけだしたマツを抱く。



「危ないぞ?」


「…すみません…飲みすぎました…」


ふわりと君を近くに感じてしまい、俺の中の何かが弾けそうな気がした。









代行を捕まえて乗り込む時にはすやすやと眠っている。





部長として心配してるんですか?




すぐ答えることができなかったんだ。


そうじゃない。
俺は、君が、気になって仕方がないんだ。
一人の女性として。




このまま家に連れ込みたい。
独占したい。

なんてどす黒い考えがチラついた俺自身に失笑だ。




俺も随分と"男"だったようだ。








end




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