知恵熱



もとの部署にもどしてください
優しくしないで
もとの部署にもどしてください…
優しくしないで…

タケの言った言葉が頭をガツンと殴ってくるような気がした。



慌てて追いかけようとするも道路だったから車を置いていけない。
タケを追いかける冨岡の背中を眺めることしかできなかった。



俺は…どうしたいんだ







これからの2人







「最近お前どうした?」

久しぶりに会った営業課の上司にお昼を誘われ、行きつけの蕎麦屋へと急ぐ。
目の前には熱々の蕎麦が2つ。
かき揚げ付きだ。
ここの蕎麦はタケとも来たな。

いつかの彼女を思い出して顔が緩む。


「問題なく過ごしていますよ!仕事も順調で…」
「違う。同じ部署の女性のことさ。お前、仕事にはそういうのはいらないって公言していただろう。どういう風の吹きまわしだ。」


ハフハフと蕎麦を食べている上司を目の前に俺の箸が止まる。



「誰にも公言していないはずですが?」


俺の心の内は俺にしかわからない。
無論、タケに対する恋心も、だ。




「バカ。お前わかりやすいんだよ。こんなおっさんでも丸分かりだ。お前の気持ちが行動に駄々漏れてるぞ。付き合っているのか?」



本格的に箸が止まった。
早く食べないと延びるぞ。蕎麦が。
頭ではわかっているのに箸が進まない。



そうなのか…?



「付き合って…ません。付き合いたい気持ちはあります。半端な気持ちで接してるわけではない。」



「そりゃわかるよ。長年のお前を見てるとな、無責任にするやつじゃぁない。そういうやつだって事も。ただ、中途半端にはするなよ。お前の立場もある。統率する側だからな。」




入社してわりとスピード昇進した俺。
自身の下には可愛い部下たちがたくさんいる。もちろんタケや冨岡もその中の一人だ。


だが、最近の俺はどうだ…?
タケが気になってしょうがない存在になってからは周りを気にせず彼女の事をサポートしていた…ような、気もする。




チラと俺を見てくる上司から目をそらすことはできない。



「お前はさ、人一倍努力家で性格柄自然と部下もついてくる。そんなやつだ。男女どちらからもお前への好意をもっているやつはたくさんいる。だがな、女は怖いぞ。それだけは言っておく。お前の気持ちが伝わるといいな。」


ごっそさん、と蕎麦代を机において席を立とうとする。



「…ご指導ありがとうございます。昔女性絡みで何かあったんですか…?!」


「それ聞くなよな。」




午後から外回りらしい上司は身なりを整えてグッドラックして行った。



そんな事をつい最近言われた矢先の帰納の出来事。



俺はどうしたらいいんだ…?





悶々とするもさっきタケを追いかけた冨岡の後ろ姿が離れない。
2人は幼馴染み。
その後もし2人が…


部長としての立場
周りの目
男女平等に接していたつもりがどうやら女性にも人気があるようだ。

言われるまで全く気づかなかった出来事がぐるぐると脳内を周り出す。





俺は風呂も入らずスマホをじっと握りしめるだけ。


タケに電話をしようか何度も手に取ったが通話ボタンが押せない。
電話したとしてもなんと言えばいいのか…?


俺は彼女を苦しめていたのか?

元の部署に戻りたいほど…?




おもむろに冷蔵庫から冷えた缶ビールを1本掴む。




珍しく飲んだら眠れる気がした。
悩んでも仕方がない。
明日になれば会社で彼女にあえる。




会って話すべきだ。

そう決意してほどなく意識を手放して目覚めると思わず目をしかめるほどの激しい頭痛。





体温計なんてあるわけがない。

昨日の夜風呂に入ってないからか、少し汗ばんだ髪の毛をかきあげる。




「……熱が…あるな。」



人より体温が高い俺でもわかる。
体の芯からの熱。


千寿郎が小さい時に欲しがっていたおもちゃ。数量限定で発売日の前夜から並んだ高校生の時。




熱は、あの時以来だった。






end

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