あのね、、




部長にあんなことを言ってしまって猛反省した。

元の部署ならこんな気持ちにならない。
これはきっと、逃げだ。
それでも私は言ってしまった。
取り返しのつかない事。



しかも優しくしないで、なんて。。


私はアホか!
これじゃ好意があったことがばれるのでは、とか。。

恥ずかしいやら申し訳なさが巡る出勤時。
朝一で部長に謝らなきゃ。

部署移動の話しももっとちゃんとした理由でも話して…

そう決心してオフィスに入ると珍しく慌てていた蜜璃さんがいた。


「おはようございます!どうかされたんですか?」



「それが…部長がまだ出勤してないのよ〜!電話も繋がらないし…困ったわ…」


目を真ん丸にして驚く。
珍しい事だ。部長は晴れの日はいつもランニングしてから出社している。
いつもこの時間にはいるはず…なんだけど…



「タケちゃん、、お願いなんだけど部長の家に行ってくれないかしら?」


今日は他の会議があるらしい蜜璃さんは行けないみたい。。


「タケちゃんが来たらきっと喜ぶはずだわ!」


「へ!?!」


思わずすっとんきょうな声がでるもニコニコして渡された空港チケット。
どうやら明日からの出張のチケットらしく、届けないと不安らしい。


お願いね!部長は芋が好物だわ!と語尾にハートがつきそうなウキウキした蜜璃さんに何も言い返すことができず。




「ど、どうしよう…」







これからの2人






ラインで部長の自宅らしき住所が届いた。
謎のグッドラック☆!!というスタンプまで添えて。



言われるがまま来たけども…


「こ…高級マンション…」



目の前にそびえ立つタワーマンション。
新しいのか、とてもシンプルで綺麗だ。




「701…か…」



手ぶらで来るのはと思い詫びも予てお芋のスイーツを買ってきた。



部屋番号をオートロックキーの横で打とうとするのにドキドキして押せない。
しばらく迷うこと数分。
意を決して701を押す。


出てほしいのに
出てほしくない
出てほしいのに…

顔をみたいのに…




【……はい…】


でた…!あれ?なんか声がいつもと違うような…


「部長ですか…?私です、マツです…出張の飛行機のチケットを…」



【タケ?】



思わず早口になってしまったが遮るようにドアが開いた。

これは…あがって来いということ?


いやいや、
会わずともチケットをポストにいれたらそれでいいのに。




「私ポストにいれておきますので取りに…」



【君と…話がしたい…】





そう話す部長の声はいつもより元気がなく、心配してしまう。




しばらくの沈黙。



「…あの…私…」



【頼む…】


その声をきいて




行かずにはいられなかった。
気づいたらエレベーターで七階を目指していた。






たまらずピンポンを押すとすぐドアが開いた。
ここは七階。
そこそこ高いからか、風が少し強い。



「タケ…」

「…部長…あの…」


顔が見たい、と思ってたのにいざとなると見れない。

咄嗟にお土産を渡そうと手元に目をやるとぐっと手を引かれ、部長の方へ倒れこんでしまった。



「部長?!」


少し汗ばんだ胸元に顔を突っ伏してしまう。
一瞬で彼の匂いがぶわっと流れ込んできた。




「ずっと…ずっと考えてた…君のことを…俺は…」



ドキドキして仕方がない。

それにしても熱い。
熱い…?



「ちょ、ちょっと部長もしかして熱がありませんか!?」



がばっと手の内から離れて初めてみた部長の顔は赤く火照っている。
手をおでこにやると熱い。これは熱がある。



いつも束ねている髪の毛も今日は垂れている。明らかに体調不良だ。



「あの、私ひとまずポカリとか買ってきますから。話は後で…」



それでも私の手首をぎゅっと握って離さない。



「嫌だ。タケはもとの部署に戻りたいんだろう?今離したら駄目だ…」



熱でどうかあるのだろうか?
少し幼い部長の言動に愛らしさを感じる。


「必ずここに戻りますから…話はその時で、いいですか?」


何も言わず頷く部長を背に、彼の手をぎゅっと握り返す。



「……わかった…」


そうするとほっとした表情で部長は握っていた手を離した。



end



トップへ OR戻る