ふわふわのたまご雑炊

お財布とスマホだけ持って足早にマンションをでる。
エントランスを出て外の風を吸い込んで一息。




あっぶなかったぁぁ…

なんなのあの部長は…


いつもと違う色気が爆発してる…!
刺激が強すぎて胸がドキドキしてる。


いつもの元気な部長も好きだけど
ちょっと弱った姿もそれはそれで、なんて。

踏ん切りのつかない自分に苦笑いした






これからの2人






「…うーむむむ…どうしよう…」


部長宅から飛び出してきたけど…
スーパーが近くにない!コンビニしかない。
病気だからあまり待たせてもいけないし…
コンビニで出来るものをしよう。


レトルト食品がいいのか?はたして作ったほうがいいのか…
冷蔵庫もみてなければご飯を炊いているのかもわからない。
出来合いのものよりも作ってあげたいな…



「……よし、決めた!」



コンビニでは珍しい大袋に品物をいれていそいそと向かう。




※※※







寝ていると入れないから、と渡された鍵を刺し、オートロックを開ける。


「開けますね…」


先ほどのやり取りがあった玄関を開けるとふわっといい香りがする。
何度も声をかけるけど返事はなく、勝手にお邪魔することに。
そろりそろりとリビングの方へ進むと、部長はソファに寄りかかって寝ていた。


「…風邪引きますよ?」



小声で話しかけるも寝ているようで起きない。
でも額に汗が滲む…
そっと手を当てるとやや熱い。


「熱…ありますね…」


ふとテーブルをみると解熱剤のゴミが置いてあった。薬飲んでたら熱は下がるはず。
そう思ったら少しほっとした。






冷えピタなんて買ってこなかったから自分のハンカチタオルを濡らしてそっとおでにのせる。


「…勝手にすみません…」

独り言をいいながらキッチンの水道でタオルを濡らしてくる。

ここで料理とかしてるのか…
男性にしては綺麗に使ってる、と思う。
もしかして彼女がいるとか?
散策するつもりもないのにまじまじと部屋を見渡してしまう。
いけないいけない。



しばらくすると皺のよっていた眉が垂れてきた。スースーと聞こえる寝息にほっとして、上着をかけてあげる。


「失礼しますね…」


誰もいない台所でさっき買ってきた卵と野菜とシーチキンを取り出す。
乾麺うどんも買ってきたけど電子レンジの下の炊飯器は保温になっている。

パカッと開けるとややカピってるご飯が半分。
昨日炊いたのかな?保温してたら持つけど古くなるとおいしくなくなるもんな…
このご飯…使っていいかな…

悩むこと数分。

勝手に使っていいかわからなかったけどきっと部長は笑って許してくれるはず。



保温ジャーから取り出し、ご飯を冷ます。


その辺においていた片手鍋に水と鰹節をいれる。鰹節は細切りだからそのまま使おう。

人参、玉ねぎ、キャベツを手際よく入れてひと煮立ち。
あ、いい匂い。
チューブの生姜をたんまりいれて冷飯を投入、、は起きてからがいいかな?

ご飯はそのままにして葉ネギを切ろうとしたそのときだった。


「うまそうな匂いがするな。」




「起こしましたか?すみません…具合はどうですか?」



「薬を飲んだら少し落ち着いた。何かを作っているのか…?」



「あの、風邪だから雑炊を…どれくらい食べるかわからなくてまだご飯いれてません。」


スウェット姿の部長が少し汗ばんだ髪を束ねた。そして台所へと来ると、お玉から一口味見。


「…うまい…これ、タケが作ったのか?」

「はい!簡単なものですけど…」


「米は全部いれてくれ!残りは夜に食べたい。」

そうにっこり笑うけれども額には汗が滲んでいる。まだ微熱くらいあるのかも。

ご飯をいれて火をを消す。卵を2個割りいれて余熱でふわふわ卵雑炊のできあがり。

葉ネギの風味がとてもいい。
ちょうどお昼時となっていたのでお腹すいてきた!


落ち着いた色のテーブルにどんぶりいっぱいの卵雑炊と、お茶碗が並んだ。


「あ、そういえばゼリーとポカリもありますよ!」


「うむ。まずは君の作ったものを美味しく頂こう。」



私の作ったお弁当を食べていた時もだったけど手料理を目の前で食べてもらうのは、やっぱり気恥ずかしい。


「うまいな…君は本当に料理上手だな!弁当もうまかった。」


しばらく食べていたけどいつものペースではない。よそっていたどんぶりに入っていた雑炊は完食したみたいだけど…



「ありがとうございます…そういえば私、蜜璃さんにお願いされて飛行機のチケット持ってきたんです!でもこの感じだと出張厳しそうですね…」


ふう、と一息つくも本調子ではない顔をみると心配する。


「問題ない…その仕事は大事な仕事でな!休むわけには…」


食べ終えた茶碗を片付けようと立ち上がろうとするも少しふらつく足元。


「危ないです!私が洗いますから座っていてください!ポカリ持ってきますから…!」



そういってちょっと強引に背中を押してソファに腰かけさせる。

慌てて流しでお皿を荒い、冷えたポカリとゼリーを持ってくる。



「お布団とか持ってきましょうか?」



「…暑いから大丈夫だ。何から何まですまない。」


「わかりました、出張は無理のないようにしてくださいね!わたしはこれで、」



部長の座るソファの前の机にそっとポカリを置くと、そのまま腕を掴まれて体制を崩す。


「わっ…!」


よろけて引っ張られていた部長の方へとた折れ込み、後ろからぎゅっと抱き締められた。

カァァと昇る体温。

それはお互い様なんじゃないか、と思うほど熱をもっているわけで。






「…ちょっと!びっくりしたじゃ…」



振り向きたくとも部長の顔が私の首もとに突っ伏している。
近くで感じる体温にドキドキが止まらない。

腕から逃げだそうとすると、またがっちりホールドされて離してくれない。


「離してください!」


「離さない」


「…なんの冗談でしょうか…」


「冗談なんかじゃない。俺は…」



しばしの沈黙。
胸の鼓動が伝わりそうなくらい高鳴っている心臓。ばれないで、どうか。









「君が好きだ。」










end







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