順調かと思いきや


こじらせていた風邪も、出張当日にはけろりとよくなっていた。
というかタケの顔が見れたからだと思う。頭もすっきりしている。

やるべきことはひとつ。
もう迷わない。彼女にちゃんと気持ちを伝えたい。



もし、彼女が了承してくれたなら。
そう思うと浮き足立つ自分がいる。
生半可な気持ちではない。もちろん将来を見据えてと思っている。

昔から恋だの愛だのには疎い方だった。
興味がないわけではないが、少し気になるという理由だけで付き合うことはできなかった。

タケは心がくすぐったくなるような、そんな存在で。

最初は仕事のパートナーとして必要な人になっていた。
いつしか気になってしょうがない、なくてはならない存在にまでなっていた。




まぁ…この前は少しやりすぎた…。
あの日以来千寿郎が連絡を無視している。
多感な時期だ、申し訳なかった…と思う。

と同時に自身の感情的な欲にも驚いた。




「自制ができないとは…まったく。」



よもやよもやだ。





これからの2人






一週間の本社での仕事も中盤だ。



早く会って話したいと、意気揚々となる自分を制し、仕事に励もうと思っていた矢先。






「よっ、煉獄。元気か?」



「これはこれは!ご無沙汰しています!お元気そうで!」


「あいかわらず声がでかい…お前は聞かなくても…元気そうだな。」



「もちろんですよ。」



以前同じ会社にいた上司で、本社に移動した凄腕の方だ。




「聞きたいことがあってな…ほらよ。」

「あ、俺が…」


「いいよ。元上司が元後輩に買ってんだから素直に受けとれって。」




缶コーヒーを1本手渡され、受けとる。


「それならば遠慮なく頂きます!」



半分ほど飲みながら近状報告をして、会話が止まる。



「お前…北海道にいかねぇか?」



しばしの沈黙。



「…移動ですか…?」



ふぅ、と一息ついて北海道社の話をされた。
単純に経営が思わしくないらしい。
全体的にはうまくまわっているみたいなのだが北海道だけが、なかなかだということだ。




「俺が行って勤まるかどうか…」



「売上がどうこうじゃないんだ。ただ…会社の指揮が落ちている。そこを立て直してもらいたい。チームワークを組んで前向きに導いてほしいわけ。その話を聞いてお前が適任じゃないかと思ってさ。」



「しかし…遠いですね」




「それはそうだな。日本の北だから。」





「……俺は」


俺の脳内をマツの顔がよぎる。
彼女を置いて…行くということか。
そもそも付き合っていないから置いてなどと言う問題ではない…が。




「ま。よく考えて研修最終日に返事をくれないか?お前にかけたいんだ。」


ポンポンと肩を叩かれ会議室へと入っていった背中をずっと見ていた。



残りの会議も半分は筒抜けで。
今後のことばかり考えていた。



会社には恩がある。助けが必要となれば行くしかない、と思う。




タケと話をしないまま決めなければならない。







俺は…どうすればいいんだ…?




end






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