それから…
部長が出張から帰ってきた。
話したいことがあると言われて身構えること一週間。
「何も話してこない……」
というか毎日上の空だ。
仕事中も無言が多い。自らのデスクで仕事をしていることが少なくなった。そして上によく呼び出される。
私もあの時はなんだったんですか?なんて聞けない。
嫌われたかな、と不安になるときがある。
期待しても、そうでなかった時に傷つくのが怖い。
好きだ、と言われた事を忘れよう。あの時は風邪だったから。
きっと熱に魘されていたんだ。
私も好きです、と言えないままでいい。この先もずっと。
これからの2人
「お、煉獄いないのか。」
コンコンとオフィスに入ってきた上司が何やら山のような資料をデスクに置く。
「私がお渡ししましょうか?もうすぐ戻られると思います。」
「そうだな!じゃぁよろしく頼むよ。急ぎだと伝えてくれ」
「はい!」
そういって少しバラけた資料を整理し直す。
「この前の出張先での報告書かな?」
ちらりと文面を見ると、全て北海道社のデータだった。
それも詳しく内部事情の詳細がかかれている。
「これも…これもだ。全部北海道…」
そして付箋が貼ってあるそこには…
「4月1日 …」
ドクン、ドクン、と脈打つ胸がより一層聞こえてくる。
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4月1日
北海道社
営業部:煉獄杏寿郎
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「…そう…なんだ」
じわりと揺らぐ視界。
そういえば前に北海道社の方が思わしくないと聞いたことがある。
必死に涙を堪えるもほとほとと流れて止まらない。
これは何の涙なのか自分でもよくわからなくて。
ただただ仕事だけでも側で応援したいと思っていたから。
「もう来週じゃない…」
それにしても遠い…
北海道なんて…
ズビ、と鼻を啜りハンカチで拭く。
「…タケ?どうしたんだ?!どこか具合でも悪いのか!?」
タイミング悪く出先から帰ってきた部長を背になんでもないと言い張る。
「…なんでもないです…大丈夫です」
「そんなわけないだろう。目が腫れている。」
顔を見られたくなくて袖で隠していたその手も取られ、ぐしゃぐしゃの顔が見られてしまう。
「…俺には言えないことか?何か悩み事でも…」
貴方の事で悩んでいます!と口を大にして言いたい。
「…これ…さっき上司が持ってきました。本当なんですか?」
山盛りの資料を指した後、移動の事項が書かれていた書類を渡す。
「…ああ、本当だ。向こうの経営かがなかなか難しいらしい。会社の指揮が下がっているらしく、俺が行く事になった。」
「部長が行ったら絶対…持ち直しますね。」
頑張ってください!
行ってらっしゃいとすんなり出てこない自分がいて。
「そうなるように俺も善処したい。タケ…俺と一緒に来てくれないか?」
「え?」
「北海道だ。俺は君とずっと一緒にいたい。向こうで俺を支えてほしい。俺もタケを支えるから。」
そういってその書類を置き、手を握ってきた。
ぶわっと熱が上がっていく。
「改めて言う。俺と…結婚してほしい。」
end