お昼ごはん
なんでもいいと言われてあれやこれや断ったけど全く聞く耳持たず
半ば強制的にオフィスの外に出た。
途中蜜璃さんを見かけてヘルプを出してみたけどグッドラック!と言わんばかりのグーをされた。
近くに義勇もいたのかな?
まだ4月だというのにじんわりと太陽が暑い。
これからの2人
「では遠慮なくいただきます…」
頭のなかで捻り出した好物が蕎麦ぐらいしか思い浮かばず
部長の行きつけの蕎麦屋に駆け込んだ。
鰹と昆布出汁のいい匂いが店じゅうに充満している。
「マツは決まったか?」
こうやって対面で座ることがないのでちょっと気恥ずかしい。
「なんでもいいぞ!遠慮せずな?」
部長のおすすめは天ざるそばらしいのでそれにした。
「天ざるそば1つと天ざるそば特盛、おむすびと豚汁も頼む」
オーダーを取りに来た方は結構なお年のおばあちゃんだったんだけど、部長が常連だからか、にこにこしている。
こんな年齢まで元気に働けるかなぁ…
自信ない…と勝手にネガティブ。
「ところで、仕事はどうだ?慣れてきたか?」
「今している仕事に関しては目処がついてきそうです」
そうか、と伏し目がちになる。
大きな目がゆっくりと閉じていく。
「入って早々すまなかったな。終わったら色々と企画や提案を頼む!」
そうだ、本来の仕事内容はそれだもんね。
「私に勤まるか…」
そう濁すと驚いている。
だって提案とか経験ないし…
そんなに頭の回転も早くないです!
「君が事務室で仕事をしながら熱心に予算の用紙を見ているのをずっと知っていた」
「そうなんですか!?」
知らなかった…
どこで見てたの?じゃなくて!
私なんか部長見たことなかった。
企画部になにやらすごい人がいる、だけで。
「事務は企画と予算の用紙が一緒にまわってくるだろう?今までの事務担当は予算用紙だけ目を通していた。金額の帳面でのやり取りが主にだからな。でも君は違った。」
お茶をすする音、店の雑音がやけに騒がしい。
「ちゃんと企画内容を読んで予算が厳しいときは上に掛け合ってくれていたのを知っている。だから君に来てほしかった。」
確かにこんな、企画したら楽しいだろうな…こども達好きそうだな、嬉しいだろうな…
そういう企画をなんとか実行できないかと思ってよく読んでいたけど…
まさかばれていたとは!なんで!?
「事務長も、君を手放すのを惜しんでいたよ。ほら、来た。」
目の前に運ばれてきた美味しそうな天ざるそば。
茄子の天ぷらがある!!大好き!
そして目の前には部長の頼んだてんこもりのごはん達。これ食べられるの!?
「よし、食べるとするか!マツの歓迎も兼ねて!」
さっと割り箸を渡してくれた。
七味も。
「じゃあありがたく…いただきます!」
部長のてんこもりのごはん達はすぐなくなった。恐るべし食欲!
私が茄子の天ぷらを最後までとってたら、部長が部長の茄子の天ぷらをくれた。
優しい。
2つも食べられて幸せ。
たまには人と食べるのも悪くないなぁ
「あらあら珍しいですね、煉獄さんが女性と来るなんて」
「今度うちの課に入ったマツだ!」
おばあちゃんがにこにこして水まんじゅうを持ってきてくれた。
「ここは昼は蕎麦屋なんだが和菓子もうまい。」
「たいしたものはありませんよ。ゆっくりしていってくださいね。」
おまんじゅうのサービスを、持ってきてくれたおばあちゃんはとても嬉しそうだった。
きっと部長のたべっぷりが好きなのかも。
それにしてもこれ
「おいしい〜!!!!!!」
「!?」
このぷるっとした透明な皮にあんこはつぶ餡?!甘さ控えめで綺麗だしもう幸せ…
「…マツもそんな顔するんだな」
ハッ!と、気づくがもう遅い
水まんじゅう1つに子供みたいにはしゃいで
恥ずかしい!
「す、すみません…つい」
甘いもの大好きだから
「いや、喜んでもらえて何よりだ。来たときは眉間にシワが寄っていたしな。もっと笑った方がいい」
そういって、笑いながら部長のぶんの水まんじゅうまで差し出してくれた。
いつも快活な部長の初めて見る顔。
「…さては私を太らす気ですな!?」
「女性の体型はよくわからんが、あまり細すぎてもよくない!ほら…好きな人が食べた方が女将も喜ぶ」
「……では…遠慮なく…」
普段の仕事の部長とはまた違った面を見れたようでとても不思議。
その日の午後はお腹いっぱいで眠たくてちょっと頭を小突かれた。
end