「ありがとう、助かったよ」

「いえいえ!まさかうちのマンションの近くだったなんて!」



教えてもらった通りの道を行くと、なんと我が家の近くではありませんか。


「君がたくさん美味しいお店を教えてくれるもんだから。その辺がいいかな〜と思ったんだよ。」

「乙骨さん、料理あんまりされないって言ってましたもんね!」

荷物を車から下ろすと、ヒョイと段ボールを持って上がる。
乙骨さんて虎杖君みたいにムキムキではないけど、力持ちなんだなぁ。
特級だもんね。

せっせせっせと運びだし、私は小さな荷物を運んでいる。

チラリと中を見ようとするもパンダ君が言ってたことが頭をよぎる。

この中にあはーんでホワァオな荷物…


なぜかカァァとなる自分がちょっと恥ずかしかった。


「どうかした?」


「いえっ!別にっ!」







君という花




それから私と乙骨さんは、よく任務を共にするようになっていた。
五条先生いわく、"相性が良い"らしい。
おそらく乙骨さんの後ろにいる何か、と私の帳が良い具合なんだと思う。


誰かの役に立てることは嬉しくて。より一層仕事に励んだ。


「暑いですね…スーツやめません?」

「私もそうしたいのですが、、上がなかなか。」

伊地知さんを困らせるのは分かっていたけど夏のスーツはとても暑い。
シャツにパンツスタイルだけど下がね。暑いよね。

第2ボタンまではずして、パタパタと仰ぐ。
自販機前で冷たいものでもと悩んでいると、後ろからにゅっと手が延びてきた。
は?!この展開いつぞやの!と思ったときにはもう遅い。
激甘バナナミルクを押された。


「ぁぁあああ!」

「これにしようとしてただろ?うまいよね〜」

「五条先生!!」

ガコン、と落ちてきたバナナミルクを差し出され、激しく落ち込む。

冷たいお茶か炭酸がよかったのに…


「僕のおすすめだよ、いちごミルクもいいけどそっちもなかなかうまいよ。」


しぶしぶとそれを開けて一口…。

逆に喉乾くんじゃない?と思うくらい濃厚だ。おいしいけどさ!



「…おいしいです、五条先生は今日は高専ですか?」


「いや、外だよ。夏油の同行を探ろうかなと思って。」

夏油傑。
この前会議で上がっていた人物。
表だってすごく悪いことをしているわけではないんだけど…

「悪質な呪詛師…でしたっけ。先生の同級生の。」

「そ。僕の親友。学長もね、傑に心を入れ直して戻ってきて欲しいんだよ。才能も抜群だしね。」

先生と学びを共にした友人が何故…
チラリと先生を見ると、少し寂しそうな顔をしていた。


「何?じろじろ見て。惚れんなよ」

「全くもって無いですから安心してください!」

「相変わらずだね。まぁー俺のお気に入りの子はね、傑にちょっかいだされてんの。だから名前も気をつけて。」

「接触したことがある人がいるってことですか?」

「そ。憂太とか悠仁はあるよ。」

先生と同じ特級でもある夏油さんは何を企んでいるのか。
仲間にならないか、と引き込まれそうになるだけで、少しでも抵抗してら逃げると報告書には書いてあった。


「目的はなんなんでしょうかね…」


「んー…半分は俺への嫌がらせかな?それはそうと憂太の任務どう?」


サワサワと外の木々が揺れている。
少しぬるくても、窓から吹き込んでくる風は心地よい。


「どうって…普通です!強いですよね…本当に。」

「そ。ならよかった。引き続き頼むよ。」


「あ、はい…頑張ります…」


五条先生がいなくなった後、時計を確認したらもう少し余裕がある。
そのバナナミルクを飲み干してしまおう。それにしても暑い。
クーラー壊れてるんじゃない?


部屋の冷房の操作ボタンをえいっえいっと押してみる。


「壊れちゃったの?」

「乙骨さん!こんにちは。暑くて冷房効いてるかわからなくて!色々いじっているところです」



「22℃か…ちょっと効きが甘いかな。」

ふぅむとモニターを覗く乙骨さんの横顔を見る。
普段は年相応らしい表情をするもんだ…戦ってる時とはまるで違う。
気持ちを入れ換えてるんだろうな。




パタパタとシャツを仰ぐと乙骨さんがぎょっとして慌て出した。




「…名字さんさ…お願いだからボタン閉めてね?せめて上だけだよ。開けるのは。」


「へ?わ…」


ふわりと第2ボタンを閉めてくれた乙骨さんの顔は困ったように少し赤らんでいた。


「さっき五条先生いたでしょ。その時も暑かった?」

「はい!暑くて暑くて!あの…乙骨さん?」


はぁぁあ…と盛大にため息をつかれた。なんでだろう?


「女性なんだから。気を付けて。」


何を気をつけるのかわからないけど乙骨さんの顔が一瞬重たくなったような気がして。
思わず何度も何度も頷いた。



夏でも開けるのは第一ボタンまで!


私の気をつけるべき項目にひとつ加えられた。




そして迎えるべく次の任務は地方のだ。確か自殺の名所でもあるつり橋付近。



今日はゆっくり帰って準備しよう。




「明日からの任務…遠方だけどよろしくね。」


「へ!」

予定では野薔薇ちゃんとだったはずなのに…




まさかの乙骨さんとの任務に変更で少し胸が高鳴った。







end